誰そ彼
声に促され、珍しく自分より下にある幼馴染みの視線を追えば、雨がやみ、雲が晴れ、庭に光がじわりと差し込んでいた。光の様子から見て、そろそろ、皆が起きて出して来る頃だろう。
大抵毎朝のように、六条堀川の屋敷からは九郎と弁慶がやってくるし、早朝からいないヒノエも朝食までには一度帰って来る。そして誰より、望美を起こしに来てくれる朔が彼女の不在に驚くに違いない。いつも朝はぎりぎりまで寝ている彼女が室にいなければ、心配性なもう一人の幼馴染みと一緒に必死になって探してくれるだろうに違いなかった。それがわかっていて探させるのは忍びない。
今のうちに、何事もなかったかのように寝床へ戻らなくては、と、頭の隅で思う。しかしなんらかの引力が働いているかのように、久しぶりに共にある幼馴染みの側は離れがたかった。そんな様子に気づいたのか、望美の肩から頭を上げて、庭の方を伺うと、将臣は何でもないことのように「出掛けるか」と呟いた。
「譲には俺が言っておくから、支度、して来いよ」
それが既に決定事項であるかのように言う、その口調がまるで昔のままだったので、反論も忘れて望美はただ頷いていた。