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市営住宅の真ん中の入り口の4階の右

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「意外と、な。でもすぐ近くに学童保育もあるし、もちろん学区もそのままだぜ」
「確かに……。あ、でも空きが出るかなァ」
「少なくともひとつはな」
 フライパンで何かを炒めながら、母ちゃんがぼそりと言った。
「うち、来年までにここ出るんだよ」
「え……えっ。引っ越すの? どこに!」
「ばーか、学区内だ、学区内。こいつ、来年昇進すんだよ。で、所得が公団規定の上限超えちまうんだ。だから出てかなきゃなんなくてさ。俺も、そろそろジジイのレストランに復帰する予定」
「へー……あ、もしかして夢のマイホーム?」
「まあな」
 だから気張って働かねえと、と笑いながらコンロの火を止め、母ちゃんは台所のふすまを開け放った。
「おいてめえら! メシだ、手ぇ洗って来い!」
 やったァ! と、コントローラーをほっぽリ出してルフィは洗面所に向かい、ゾロもゲームの電源を落としながらチビナスを抱えてその後を追った。
「こういうとこは、食欲に忠実な分やりやすいよな」
 呆れたように母ちゃんがぼやくと、確かに、と父ちゃんもエースも笑った。
「お、電話……」
 騒がしい中で小さくバイブレーションの音が鳴る。出所は父ちゃんのポケットに入った携帯だったようで、ビールのヒゲを付けながら廊下――に出て行こうとして逆にリビングに入った。今まさに子供たちの声でやかましいのは廊下というわけだ。
「……もしかして、呼び出しとか」
「ぽいな。あーあ、また洗濯物が増える」
 あいつの皿よそってなくて良かった、と言う母ちゃんの横顔は、なんとなくいつもより唇が尖っている。
 子供たちがワアワアと台所に入ってくると同時、父ちゃんも戻ってきてほとんど予想通りのことを告げた。

 それから慌しく母ちゃんは父ちゃんに『出動服』という機動用の制服を着せて、5分後には玄関から父ちゃんを見送っていた。
「5丁目の川が決壊だとよ。お前らも帰り危ないだろ、今日は泊まってけ」
「いいんすか?」
「今更何言ってんだ」
 忙しないよなァ、警官の女房ってのは……。そうぼやきながら自分の皿にカレーを盛って、母ちゃんはチビナスの隣の席に着いた。お前らはもうちょっと勉強してサラリーマンでも目指せよ、なんて冗談めかして言っている。
「ていうか、酒飲んでたから、歩き? 大丈夫すか?」
「あー、酔い覚ましだとよ」
「相変わらずタフだなァ」
「それだけなんだよ、取り得が」
 ほら、残り全部飲んじまえ、と母ちゃんは瓶の中身を全部エースのグラスに注いだ。
「おれも飲みてー!」
「ガキが何言ってんだ。脳みそが爆発しちまうぞ。こえーだろ」
「ウッソでー」
「マジだ、マジ」
 ワアワアと騒ぐゾロとルフィの皿に、母ちゃんはポンポンとサラダを放り込んでいく。うげ、とルフィが呻いたが、デザートはアイスだ、と母ちゃんが言うとバリバリキュウリを噛み始めるのだから、現金だ。



 メシを食い終わり、アイスは5色だったのでジャンケンで争奪、それからエース、ゾロ、ルフィの3人はまとめて風呂に突っ込まれた。エースとルフィの住んでいるアパートよりはさすがに広いけれど、ロロノア家の風呂だって別にそう広いわけじゃない。大の大人と子供2人がぎゅうぎゅう詰めになるのはせまっ苦しく窮屈で、しかもルフィがいつもどおりにはしゃぐものだから時々ゾロがキレそうになった。

「お先にどうも」
「エースのチンコが一番でかかった!」
「当たり前だろ。でもうちの父ちゃんのほうがでかいぜ」
「ぜってーエースのでかい!」
「チンコチンコ言うな、アホガキども。髪の毛乾かせよー」
 3人が風呂から上がれば、母ちゃんは洗い物をしている真っ最中だった。赤ちゃん椅子の上ではチビナスがこっくりこっくりと船を漕いでいる。
「チビナス、眠いみたい」
「今日は1日中遊んでて疲れたんだな……エース、ちょっとリビングに寝かしといてくれるか」
 エースに抱き上げられるとチビナスは「うぅん」と小さく唸ったけれど、元が人懐っこいのでそうぐずることもなく、リビングに敷かれた座布団の上で小さく丸まった。
「洗い物代わるよ」
「お、悪いな」
 タオルで手を拭くと母ちゃんはふすまを閉めて、換気扇の下で煙草を銜えた。
「雨、ずっとこの調子かな」
「どうだかなァ」
 上に向かって煙を吐きながら、母ちゃんはカーテンを捲って窓の外を覗いた。とは言っても、真っ暗で外の様子などとても見えない。ただ黒色の中に自分の顔が映って、それだけだ。
「……心配?」
「何が」
「そりゃ」
 皆まで言わすな、とエースは肩を竦めた。だいたい、いつもならもっと、「人が折角作ったメシを」とか「洗濯は誰がすると思ってやがる」とか言っているはずなのだ。
「……言っただろ、タフなだけが取り得なんだよ」
 そっすか、と小さく笑って、エースは水を止めた。
 そう言えば、この人たちと自分は、歳は5つも変わらないのだ。それなのに、こうして家で食事をご馳走になって、風呂を借りて、ついでにスウェットも借りて……。それがなんだか不思議で、エースはぼんやりと母ちゃんの煙草から換気扇に吸い込まれていく煙を見つめた。
「……? どうしたよ」
「や、なんつうか……俺たち、よく考えたらそう歳も違わねえのに、あんたたちはこうやって“家族”を作って、ごくごく自然にそれを維持して……なんか、不思議だなって」
 フゥ、と、丸い大きな煙の塊が吐き出される。それはぼやぼやと形を崩して、やがて消えていく。
「お前んちだって、家族だろうが。お前が稼いで、弟育てて……」
「……そ、かな」
「そうだろ」
 水道の水でジュッと煙草の火を消し、母ちゃんはそのまま、無意識なのか水をパタパタと手で弄んだ。
「俺だってさ。ゾロ産んで、暫くは雨漏りするアパートでよ。隣はなんか頭おかしい爺さんだったし、宗教の勧誘がアホみてえに来るし」
「……あ」
 しまった、という顔をしたエースを遮るように、母ちゃんは無理矢理に言葉を続ける。
「だけどそれが不自然だったなんて、俺は思っちゃいねえし。家族なんて、血は繋がっていたっていなくたって、どうせ別々の人間同士の集まりなんだよ。それが食って寝てってうまいこと生活してんだから、それだけで充分だろ」
 キュ、と水が止まる。ぱた、ぱた、とシンクに水滴が落ちる。
「……確かに」
 ふ、とエースが笑うと、母ちゃんはポンポンとその背中を叩く。そこには「またいつでもメシ食いに来いよ」という言葉が篭められているのだと勝手に理解して、また食いに来よう、とエースは密かに誓うのだった。



 その夜、リビングのちゃぶ台とソファは台所に引っ込められて、そこにエースとルフィの布団が敷かれることになった。更にルフィがうるさく言うから、いつもは子供部屋で寝ているゾロまでリビングで寝ることになって、さながら小さな“小”の字だ。
 風呂上りに少しだけゲームをして、母ちゃんはチビナスを連れてリビングの奥の寝室に引っ込んで――。
 電気を落としても暫くはルフィがエースとゾロとにちょっかいを出していたけれど、それもすぐに寝息に変わった。
(家族……。ルフィ、家、あったけえ食事、風呂。食後のアイス。たまにはビール)