市営住宅の真ん中の入り口の4階の右
2人分の寝息に挟まれて、エースは頭の中で呟いた。家族。家族。
ゾロの父ちゃんも母ちゃんも、まったくの他人のルフィとエースを、なんだかんだでいつもこうして迎え入れてくれる。2人には子供がいて、家があって、きっとたまには手を繋いだりキスをしたりもしているのだろう。
この家は、エースの想像する“家族”そのままなのだ。
(……俺とルフィは、家族……いや、家族だ。家族だよな)
いろいろとすっ飛ばしてきてしまった気が、しないでもない。どれだけ懸命にやっても埋められないものの存在を、感じていないわけでもない。それでも、
『家族なんて、血は繋がっていたっていなくたって、どうせ別々の人間同士の集まりなんだよ。それが食って寝てってうまいこと生活してんだから、それだけで充分だろ』
なんだかくすぐったい。
少し、雨音も小さくなってきたかというころだった。
小さく小さくふすまの開く音がして、これまた小さく小さく、足音がする。
「……わり、起こしたか?」
「……や、起きてた」
「緊急出動、解除されたらしくてよ。ちょっと迎えに行ってくる」
「チェーンは?」
「いい、そのままにしといて」
ううん、となぜか同時に唸ったチビ2人の頭を両手で撫でると、母ちゃんはやはり小さく小さく足音を潜め、部屋を出て行った。
(……あの2人は)
うと、と、まぶたがゆっくりと下がっていく。
(もう少し後に、小さな小さな声で、これからのことを話したりするんだろうか)
台所で、母ちゃんの豆を摘みながら。
作品名:市営住宅の真ん中の入り口の4階の右 作家名:ちよ子