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久住@ついった厨
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艶やかな徒花と標本のモルフォ

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 アントーニョはソファに深く腰掛け、背凭れにべったりと凭れ掛かっている。だらしない様子だが、着込んでいるのはどれも上質な素材のものばかりだった。きちんとアイロンも当てられているから、服だけではそうだらけた風には見えない。それにしても緋の好きな奴だな、目に痛いぜ。この前着てたド派手なオレンジよりはマシだけど。
 対するフランシスは浅く腰掛けて、すらりと長い脚を組んでいた。こっちは体のラインに添うようなシルエットの服が好きで、今日も少しでも太ったら着られなくなりそうなものをさらりと着こなしている。落ち着いた深い青は俺も結構好きな色だ。これだけ完璧に上から下まで着飾られていると武装にも見えてくる。女でもなかなかここまで気を回さねぇぞ、普通。
 2人と俺の関係を一言で表すなら、そう、悪友だろうか。最初は取り引き相手だったり商売敵だったりした、ような気がしないでもない。いつもならそう簡単に馴れ合ったりしないのに、こいつらが相手だといつも通りにはいかなかった。
 足を引っ張られたり引っ張ったり、協力したり貶めてみたり、あれこれするうちに何故だか、俺たちは気安い仲になっていた。ちょくちょく会って呑みながら近況報告をして、儲け話もして。固い信頼で結ばれているような仲では、決してないと思う。だが根幹ではきっと、俺たちはお互いを誰よりも信頼し合っている。だから仕事で何があろうと、こうしてプライベートじゃいきなり家に押し掛けるなんてことが出来るのだ。
 俺はドレスには似つかわしくない大股でずかずか歩き、気に入りのカウチに腰を下ろす。半歩後ろをついてきていたルートヴィッヒはすかさず、座り皺が成る丈つかないようにドレスを引いて整えた。

「ルッツ、お茶淹れてこい。3人分な」
「…畏まりました」

 顧みもせずに言うと一礼する気配があって、ルートヴィッヒは足音もなく退室する。扉がきちんと閉まる音を確認してから、俺はこほんと咳払いを一つ。お互いに顔を見合わせて口パクで何やら会話していたフランシスとアントーニョはそれで漸く俺を見た。遅い、且つ反応が鈍い。俺だって日がな一日暇してる訳じゃあないんだ、仕事の話でもただの雑談でも、テキパキ熟してくれなければ困る。
 とはいえ、今日は特に予定なしだったんだけどな。でもいつ何時急な仕事が入るか分かんねぇし。いつルートヴィッヒを構い倒したくてしょうがなくなるかも分かんねぇし。用心があるならとっとと話せよ、遠慮するような仲でもなし。
 視線で促すとフランシスとアントーニョはまたお互いに顔を見合わせ、それから譲り合うような動作をし出す。お前先に言えよ、いやお前こそ、なんて言ったところか。いつになく鬱陶しいやり取りにイラッときた俺は、遂に自分から声を上げる。

「いい加減にしろよお前。言いたいことがあるなら言えってーの」
「…それならずばりお伺いするけど、」
「あれが噂の『バイルシュミット嬢が最近ご執心の男前な奴隷』なん?」

 本当にずばりお伺いされて、さしもの俺も盛大に噎せた。
 アントーニョが口にしたのは俺の耳にだってとっくに入っている、社交界で囁かれている噂だ。俺が最近囲い入れた奴隷をいたく気に入っていて、方々に連れ回しているとか何とか。事実だから訂正しようとも思わなかったが、俺の趣味を実によく分かっているこの2人に突っ込まれるとは思わなかった。
 あいつが噂の奴かなんて、聞かなくても見れば分かるだろうに。見るからに男前だし、俺が飼ってる奴を引き合わせたのは初めての筈だ。
 妙な期待に目を輝かせて俺を見てくる2人に溜め息が出る。まさかそんな下らないことの為に押し掛けてきたんじゃないだろうな。とは、そうだと答えられるのが怖いから訊かないことにする。
 ルートヴィッヒが噂の奴なのかと問われれば、俺の答えはJa以外は有り得ない。あぁそうだと頷いてやると、フランシスは諦め顔をし、アントーニョは驚愕に顔を引き攣らせた。おい何だその、やっぱりね…みたいな表情とそんな馬鹿な!みたいな表情は。俺の答え──若しくはあの時ルートヴィッヒを選んだことに、何の不満があるってんだ。
 むっと眉間に皺を寄せるとフランシスがへらりと作り笑いをする。顔面にハイヒールを飛ばしてやりたいのを俺は必死で耐えた。

「何だよお前らその顔は。何か文句あるのか?」
「いやいやそんなのないって」

 なぁ?とフランシスはアントーニョに話を振るが、残念ながらアントーニョはまだ驚きに固まっている。そんな奴から答えが返る筈もなく、気拙い沈黙が室内に降りた。
 隣をつんつんつついて反応が全くないのを確かめてから、フランシスは俺を見る。ルートヴィッヒのものとは受ける印象の違う碧眼に、心中を見透かすような鋭い視線を乗せて。
 こいつのこの眼差しはあんまり、好きじゃない。というか得意じゃない。本性を垣間見せる、へらへらふらふらした仮面を取り払ったこいつは、決して俺の好みの範疇に入らない。
 背筋の辺りがぞわぞわして、自然と険のある顔になるのが分かる。分かるけれど、にこやかな表情を作れる気が微塵もしなかった。
 ごくりと喉が鳴る。

「彼のどこがそんなに気に入った訳?」
「ふぁ?」

 口にされた言葉が意外過ぎて、変な声が出てしまう。
 きょとりとする俺にフランシスは本性を引っ込めて、またするりとお上品な仮面を被る。顔にはしてやったりという表情が浮かんでいた。
 ……もしかして、いやしなくても、俺様をからかいやがったな。
 苦手なの知っててわざわざそっちの顔を覗かせて、俺を緊張させて。その上で「どこがそんなに気に入った」なんて、なんて、ふざけているにも程がある。クソ、最悪だ。
 絶対何かにつけて持ち出してきて笑うに違いない。こいつはそういう奴だ。そういういやーな奴だ。

「フランシス、てめぇ」
「怒るより先に教えてよ。彼が戻ってきちゃう前に」
「………別に、」

 別に、ルートヴィッヒを気に入った理由なんかどれも、人を納得させられるようなものじゃない。最初の理由はまだ目が死んでいなかったからだった。それから全然屈しようとしない頑ななこと、ムキムキで暖かいこと、目が凄く綺麗なこと、ヤってる最中の声がヤらしいこと…その他挙げていけば切りがない好みなとこを見付けて、気付いたら気に入っていた訳で。
 説明して人を納得させられるような理由は、どこを探しても見当たりやしない。そもそも俺は奴隷を買う時に、理由とか小難しいことは一切考えないことにしている。何も感じるものがなければその時は収穫なしで、強烈に感じた時は即行で買い付ける。その場のノリ任せと言っても過言ではない程だ。
 だから、そう、どこがそんなにと言われても、困る。強いて言うならルートヴィッヒの全てを気に入った、か。…いや、でも気に入らないところが全くないって訳でもないんだよなぁ。
 むんむん考えていると、何故だか脳裏にルートヴィッヒの姿が浮かぶ。それもがんがん腰振って前髪乱してる時の。寄せられた眉根と細められた目にきゅんとする。ギルベルト、なんて掠れた低い声の幻聴まで聞こえて、俺はほうっと嘆息した。