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「おやすみの歌」書いてみた。

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状況を把握するのに少しかかったけれど、どうやら、僕はKAITOに、膝枕をしてもらっているらしい。

「僕、寝てた?」
「はい。特に指示がなかったので、起こさないでおいたのですが、いけなかったでしょうか?」
「ん・・・ううん。大丈夫」

KAITOのピアノを聞きながら、寝ちゃったのか・・・。

ぼんやりとKAITOの顔を眺めているうちに、前からの疑問を思い出す。

「KAITO、手、見せて」
「はい」

KAITOの手が、目の前に差し出された。
僕は、その手を取ると、しげしげと眺める。

「手荒れとか、ないの?」
「ありません。そのような機能はついてませんので」
「ふーん。羨ましいね」

KAITOの、滑らかな指先を、指でなぞった。

「マスターは、荒れるのですか?」
「うん。ガサガサになっちゃうから、ハンドクリーム塗るよ」

そこにあるよ、とテーブルを指さすと、KAITOが、いきなり、僕の上に覆いかぶさる。

「ぷっ。何?」
「あ、すみません」

どうやら、手を伸ばして、ハンドクリームの容器を取ったらしい。
ふたを開けると、指先にとって、じっと見つめていた。

「KAITO?どうしたの?」
「これを、どうするのでしょうか?」
「うん?手に塗りこむんだよ。こうやって」

僕は、KAITOの指先についたクリームを、手の甲につけると、両手をこすり合わせる。
と、何を思ったのか、KAITOは、僕の手を取ると、いきなり撫で始めた。

「・・・どうしたの?」
「マスターは、いつも、こうされているのですか?」
「え?うん」

KAITOは、真剣な顔で、僕の顔を覗き込むと、

「私が、お手伝いしても、よろしいですか?」

・・・・・・は?

「お手伝いって・・・塗るの?KAITOが?僕に?」
「はい」

・・・・・・・・・。

「うん・・・まあ、したいのなら、いいよ」

僕がそう言うと、KAITOは、何故か嬉しそうな顔をして、

「ありがとうございます」

ハンドクリームを指先に取ると、僕の手に擦りこんだ。


・・・・・・変なの。




「ここはペダルを踏んでおいて。この音の後に、放して」
「はい」

KAITOの演奏技術は、かなり上がってきている。
これなら、そろそろ連弾曲の練習に入れそうだ。

「いいよ。じゃ、もう一度最初から」
「はい」

僕は、KAITOから離れると、ソファーに座る。
背中越しに聞く演奏は、教えた通りの音を奏でていた。

自動伴奏のピアノみたい・・・。

何となくそう考えてから、それほどかけ離れたものでもないなと思った。

結局、機械が弾いてるんだから。

その時、ノックの音がして、母が顔を出す。

「お夕飯、出来たわよ」
「あ、はい。今行きます」

僕は立ち上がると、ピアノを弾いてるKAITOに、

「そこまででいいよ。僕、夕飯済ませてくるから、KAITOは、こっちで待機してて」

何時も、僕が食事をしている間は、KAITOは、ピアノの部屋でスリープモードにしている。
KAITOに、食事は必要ないし、僕の声に反応して起きてしまうので、近くにいないほうがいい。

「あの・・・マスター」

部屋を出ようとした僕に、KAITOが声を掛けてきた。

「ん?何?」
「あ・・・・・・いえ、何でもありません」

何故か、KAITOは視線を逸らす。

「そう?じゃあ、ソファーに座ってて。食べたら、また練習するから」
「はい」



夕飯の席で、父にKAITOのことを尋ねられた。

「どうだ?コンクールには出られそうか?」
「それは・・・まだ。でも、ピアノを弾けるようにはなったので、連弾の練習に入ろうと思ってます」
「そうか。それはそれでいいが、最近、お前自身の練習が、足りていないんじゃないか?」
「え?」

驚いて父を見る。
父は、食事の手を止めることなく、

「VOCALOIDに教え込むのも、お前の勉強になるとは思うがな。少し、入れ込みすぎではないかと思ってな」
「・・・それは」

父は、顔を上げて、僕の目を見ると、

「お父さんは、お前の為を思って、言ってるんだ」
「・・・はい」
「まだ、連弾のコンクールに出るには早いだろうから、次回はソロで出なさい」
「はい」
「今度こそ、優勝できるように、頑張りなさい」
「はい」
「お前には、期待しているよ」
「はい。頑張ります」

話しはそれで終わり。
僕は、黙って夕飯を食べ終えると、急いでピアノの部屋へ戻った。




ピアノの部屋に戻ると、KAITOが、ソファーでスリープしていた。
声をかけずに、僕は、リモコンを操作する。
ヘッドホンをつけて、曲を頭の中に叩きこんでいった。


間違いのないように。

完璧に演奏できるように。


「ん・・・よし」

リモコンで曲を止め、ヘッドホンを外すと、

「マスター?」
「うわっ!!」

KAITOの声に、思わず飛び上がる。

「あ・・・ああ、僕、声掛けたっけ?」
「どうかしましたか?顔色が悪いようですが」
「え?」

KAITOは、立ちあがって、僕に近寄ると、

「疲れているのではないですか?少しお休みになった方が」

手を伸ばして、僕の頬に触れた。
その、ひんやりとした感触に、我に返る。

「ん・・・大丈夫。悪いけど、僕が練習するから、KAITOは、まだ待機してて」
「マスター」

ピアノに向かおうとした僕を、KAITOが呼びとめた。

「何?」
「マスターのピアノを、聞いていてはいけませんか?」
「え?」

一瞬、何を言っているのかと思ったけれど、KAITOが、あまりに真剣な顔なので、

「・・・うん。静かにしててくれるんなら、いいよ」
「お邪魔はしません」

まあ・・・いいか。



この曲は、かなりテンポが速い。

音が滑らないように、はっきりと。

ここで、更に速度を上げて。


「っ!!」
「マスター?」

KAITOの声を無視して、僕は、リモコンとヘッドホンを手に取る。
流れてきた曲に意識を集中させて、

ああ・・・大丈夫。間違えてない。

「マスター、私にも聞かせてください」

僕がヘッドホンを外すと、KAITOが話しかけてきた。

「・・・何?」
「その曲をデータベースに入れておけば、マスターのピアノと比較できます。もし、違いがあれば、私がお教えします」

・・・・・・・・・。

「そっか・・・そうだね。KAITOは、VOCALOIDだもんね」
「はい」

僕は、ヘッドホンを抜くと、リモコンを操作する。

「じゃあ、一緒に聞こう。後で、僕が弾くから。違ってたら、すぐに教えて」
「はい」

流れる曲の一音、一音を、頭に叩き込んだ。

今度こそ、今度こそ。




「じゃあ、弾くからね。違うところがあったら、すぐ言って」
「はい、分かりました」

KAITOにそう言って、僕はピアノの前に座る。


音が滑らないように。

今度こそ、間違えないように。


ここで、テンポを速めて・・・


「っ!!」

僕は、反射的に立ち上がると、リモコンを手に取った。

「マスター!?」

ヘッドホンをつかむと、耳に当てる。
リモコンを操作して、曲を

「マスター」