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For one Reason

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Phase6.疑惑



 風呂からあがった月は、床に座り込んでいるLを見下ろす。
「・・・何してるんだ」
「月君を待っていました」
「あ、そう」
 わしゃわしゃと髪を乾かして、月はドライヤーに手を伸ばす。
 ぶおーっという音とともに髪を乾かしている間、Lは何をすることも無くぼうと月とはぜんぜん違う方向を見ている。
「竜崎・・・?」
 不審に思って声をかけると、数拍置いて彼の目がやっとこちらへと向いた。
「なんですか」
「どうしたんだ?」
「――少し、キラ事件のことを考えていたんですよ」
 そう言って笑ったLの顔は妙にさびしげだった。
 手がかりがない、検討がつかない。
 最大の容疑者の月と海砂は無罪であるであろうことが、よりによってL自身の前で示された。
「・・・竜崎」
「はい」
「今でも、僕がキラだったら良かったと思ってるか?」
 問われた言葉に、Lは困ったような顔をする。
 しかしそれは一瞬で、いつものように切り返す。
「はい、思ってます」
「・・・僕が、キラだったらうれしいか」
「というか、キラが月君だったらいいなと思います」
 微妙に違うニュアンスの言葉を吐いて、Lは浴室の扉を開けると寝室へと入っていく。手錠で引っ張られる形になった月も、その後を追う。
「どういう意味だ」
「――・・・私の追っていたキラは、純粋でした。確かに冷酷ではあったけれど、その行動には理性と理念があった。私は彼に興味を持ちました、この手で捕らえたいと思ったのは――一度、話してみたいと思ったからでもあります」
 だが、そのキラは消えた。
 今いるキラは、きっとLが求めた「キラ」ではない。
「あのキラが月君だったら、私が受けた印象は間違っていない・・・それに」
 ベッドに一人腰掛けて、Lはつぶやいた。
「月君は、とても優しくて強い人だとわかりました。キラが月君なら、キラもそうだから」
「・・・竜崎」
 意味がわからない、と困惑した彼に訴えられて、Lはぽんと自分の隣を叩いた。
「昼間の話をお聞きしてもいいですか? 嫌なら、いいんですが」
「・・・昼間の」
 つぶやいた月が、青ざめた。
 それはもう、傍目にわかるほど、青く。
「月君、寝ましょう」
 有無を言わさぬ口調で言うとLは照明を落とす。
 月はあまりポーカーフェイスが得意な方ではないのだと思う。それは今まで、あまり自分を偽らずに生きてこれたからだろう。
 彼のそういう部分も好きになったのだけど、あからさまに青くなった相手にそれ以上何か聞くのは耐えられなかった。
「――・・・竜崎」
「寝ましょう、月君。今日はもう――」
「・・・約束だったから、話す」
 聞いてくれ、とつぶやいた彼の表情は見えない。けれどきっと、とても幼い顔をしているのだろう。
「僕は――自分がキラだと思う」
 その声はいっそ不自然なほどに平坦だった。
「・・・キラ、であるとは言わない。キラであった、としか。ただその記憶はない、でも記憶が抜けた日もない。けれど記憶の中から、違和感をたどって・・・」
 その違和感の最たるものが、あの監視カメラの映像だった。
「ポテトチップスの袋の中に・・・小型テレビを仕込んでおく。そうすればカメラには写らず、僕は」
「月君」
「僕は、キラだったんだよ竜崎・・・どれだけの人を」
「違います」
 きっぱりと断言して、Lは手錠の鎖をたぐりよせ、月の手に自分の手を重ねる。
「私は信じています、月君はそんなことをする人ではない、と」
「でも!」
 押し殺した声で叫んだ月は、Lの手を振り払いはしなかった。
「僕は推理して、この推理に自信を持っている。間違っているとすれば竜崎が手にしている証拠の何かが偽りなんだ」
 そうしたら今までの捜査が意味の無いものになってしまう。
 それに、月がどれだけ考えたってLの捜査にミスはない。
 だから認めるしかなかった。自分は、キラだったのだ。そのことを忘れているからと言って、罪が軽くなるわけが無い。まったく何も覚えていないからと言って、やらなかったことにはならない。
 キラを捕まえようと思った。多くの人を殺し、父に心労をかけ、自分を窮地に追い込んだ存在を。
 それが、自分自身だったなんて。
「・・・いいんだ、竜崎。僕は、自分のしたことから逃げようなんて思わない」
 僕はキラじゃない。
 そう心のどこかで信じている。だけど同じぐらい信じている理性がはじき出した答えは客観的に見て絶対だ。
 監禁されていた時は身に覚えが無かったから無罪を主張したが、こうなってみると話は別だ。
「竜崎、僕を」
「証拠もないのに出来ません」
 先回りしてぴしゃりと跳ね除けたLに、月はどうしてだっと詰め寄った。
「――僕を監禁した証拠がある、竜崎が僕を疑う、証拠が、ある」
 月にはそれで十分に見えた。記憶がなくとも罪は罪、それは償わなくては、いけない。
 たとえ。
「僕は、僕のしたことを償いたいんだ。お願いだ・・・」
「私が集めたのは状況証拠であり、月君にも「キラ」の行為が可能であったということ、それだけです」
 静かに月の頭にLは手を置いた。
 さらさらの髪を、ゆっくりと撫でる。
「――だから監禁を行い、それが本当かどうかを確かめた。その結果月君はキラではないと判明しました」
 彼がキラであるという動かしがたい証拠はない。
 ただ、彼がキラであったと結論付ければ、今のところLの手元にある資料のほぼ全てが上手くつながっていくだけで。
 ほぼ全て、が。
「月君」
 名前を呼んで、Lは月の手を握る。
「顔と名前がわかれば、人を殺せるなんて力は、非現実です」
 返答のない彼の顔を覗き込んでも、暗くて表情がわからない。けれどきっと、放心したような顔なのだと思った。
「だからもっと、こちらも非現実に考えましょう」
「どう・・・いうこと、だ」
 かすかに戻った答えに、Lはですから、と一拍置く。
「もしかしたらキラは、人を操れるのかもしれません――殺す前でなくとも」
「っ」
「そして操られていた間のことは覚えていない・・・はどうですか」
「仮説、だ。それに海砂のことはともかく、僕は」
「・・・もしかしたら」
 息がかかるほどに顔を近づけて、Lは優しくつぶやいた。
「誰かが、本当に、月君をハメようとしたのかもしれません」
 Lにとっては本当に思いつきの言葉だった。だが二人同時にある人物の顔が脳裏をよぎった。
 事件の初期から、接触のあった人。
 キラ事件について、とても詳しかった人。
――夜神月は、キラよ
 彼女は、そう言った。
 どうして、断言が出来たのだ。
「っ・・・真紀、さん、はっ」
 彼女が何のために月の大学にいたのか――どうして捜査本部に警察の人間でもないのに加わっているのか・・・何が目的で、この命の保障すらない捜査を続けているのか・・・それも、とても熱心に。
「そんな人では――ないと、思う。それに、彼女に何のメリット、が・・・」
 つぶやいて月はその可能性に、背筋が凍る思いがした。
 データーの管理には彼女も一枚噛んでいる。誰よりも捜査本部につめている彼女だから、改ざんも容易だ。
 もしも。
 全ての証拠が――彼女の手による、捏造だとしたら・・・?
「竜崎」
作品名:For one Reason 作家名:亜沙木