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For one Reason

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Phase7.篭絡



 先日とは逆の立ち位置になっていた月に、真紀は近づく。
「真紀さんっ、ここは風呂場――」
「月君」
 下着とズボンを着ただけの格好でLが風呂からあがるのを待っていた月は、近づいてくる真紀から逃れようとしたものの、手錠がそれを阻む。
「あら、結構筋肉ついてるのね」
「って言いながら何で写メ!? じゃなくて僕まだ」
「・・・ねえ、月君」
 手に持った携帯を閉じて、真紀は突然真顔になった。
 その表情の変化に、月も照れるのをやめて身構える。
「もし、あなたがキラだったら」
「・・・」
「・・・その罪は償うべきだと思う?」
「いきなりなんですか」
 唐突な話題に月は顔をしかめる。その件についての結論はとうに自分の中で出ていたけど、改めてこうやって面と向かって問われると。
「答えて」
「・・・・・・あなたも、僕をキラだと?」
 そう聞いたとき、真紀はなぜだか少しさびしげな顔になった。その表情変化の意味がつかめないまま月が黙っていると、違うわ、と答えた。
「思ってない。今のあなたは、キラじゃない」
「今の?」
「・・・ねえ、月君」
 仮定だから思ったままを答えてくれればいいのだけど、と前置きをして真紀は月に語るというよりは、自分に問うようにつぶやいた。
「人生をかけて作り上げたい理想郷のために尽力するのと、ずっとともに歩いていきたい人といることと、どちらが人生、幸せかしら――」
「・・・・・・それは、その理想郷が達成できるかと・・・」
 その歩いていきたい人が、どんな人かによるのだろう。
 一概に答えられない質問に、月は考え込む。
 作り上げたい理想郷――月の場合、それは平和な世界だ。犯罪のなるべくない、罪のない人が平和に暮せる、やさしい、世界。
 ともに歩いていきたい人、は。
「――僕には・・・」
 そんな人はいないし。
 理想郷の成立は不可能だ。
「わかりません」
「うん、ありがとう」
 迷っていいものよね、と意味不明の言葉を残して真紀は去っていく。
 彼女が脱衣所の扉を閉めた直後に、がらりと風呂場のドアが開いた。
「月君、タオルとってください」
「・・・竜崎、何度言ったらわかるんだ、バスマットの上に立て!」
 全身を濡らしたまま、バスマットの敷いていない部分に立って床をびしゃびしゃに濡らしたLに、月は毎度のことだが突っ込まざるを得ない。しかしきょとんとしたその顔を見るに、だからいつも自分が先に入るのだと、理解していない気がする。
 タオルを渡しても一向に手際よく拭かない相手に業を煮やし、月はこれまたいつものようにその手から奪い取るとわしわしと頭から拭き始める。
「月君・・・痛いです」
「じゃあ自分でしろ!」
「拭けないので嫌です。もっと優しくしてください」
「・・・・・・・・・自分で出来るようにしろよ」
 脱力して突っ込みつつ、月はLの背中をぬぐう。さすがに下半身を拭いてやる義理もないので、ぺいっと肩からタオルをかけると、のろのろと拭いだした。
 緩慢なその動作をいらいらしつつみながら、ようやく下着とズボンを身に着けた竜崎の黒髪から滴る水滴を見て、ため息をつく。
「ほら、貸せ」
 もう一度タオルを奪うと、げしげしと頭を拭く。
 ぬぼ〜っと立っているだけの相手の背中に、ぽつりとつぶやいた。
「なあ、竜崎」
「はい」
「人生をかけて作り上げたい理想郷のために尽力するのと、ずっとともに歩いていきたい人といることと、どちらが人生、幸せだと思う?」
 しばらく返答がなかったが、答えをさほど期待していなかった月はそのままLの頭を拭くことを続行する。
 返されたそれは、ある意味で衝撃だった。
「私は後者です。なぜなら、ずっとともに歩いていきたいと思える人に出会えたことこそ、人生でもっとも幸福なことだからです」
 手の止まった月に、Lは振り返った。
「月君に会えてよかった。人生最大の、僥倖です」
 光すら吸いそうな目で、まっすぐに見上げてきた。
 迷うことなく向けられた言葉に。
 月は、その手からタオルを落として。
「・・・っ」
 思わず、赤面した。


 つながれた手首に、さしたる興味もなさそうに見ていた真紀に、月は問いかけた。
「・・・竜崎、は?」
「さあ?」
 肩をすくめると、ぱらりとページをめくる。
 それと同時に手錠が動く。
 目が覚めたら、隣にLの姿はなく、月の手は真紀につながれていた。理由はわからない、だがLがそこにいないことと、それは彼の意思であることは明白だった。
「――ここから、動いていいですか」
「今日は午前オフなの、私」
 返されてその意味に気がつく。オフなのに月とつながれているということはつまり。
 ・・・つまり、臨時で仕事を押し付けられたと。
「・・・トイレ、とか」
 行きたいんですけど、と小声でつぶやいてみると無言で立ち上がる。しかし片手は本、何を読んでるんだ。
「はい、どうぞ」
「どう、も」
 トイレで用を終えると出てきた月を引っ張って、またも寝室に逆戻りされる。
 このままでは着替えもままならないわけで。だからと言って彼女に頼むわけにもいかないし。
「あ、の。竜崎はいつ・・・」
「月君、単刀直入に聞くわね」
「はい」
 何ですか、と生真面目に返した月にクスリ笑って、真紀は彼の端整な顔を覗き込む。
「人生をかけて作り上げたい理想郷のために尽力するのと、ずっとともに歩いていきたい人といることと、どちらが人生、幸せだと思う?」
 同じ質問をされて、月は再び言葉に詰まった。
 Lに即答されてから、何度かそのことを考えた。考えて、考えて。
「・・・会えた、なら」
――人生最大の、僥倖です
 あの言葉に嘘はなかった。
 あの瞳に、嘘はなかった。
「そう思える人に、会えるなら・・・それはきっと、幸せだと思います」
 らしくない感覚的な言葉に、月は唇を固く結ぶ。
 笑われるだろうかと思っていると、ただ無言で頭を叩かれた。
「いたっ――何をするん」
「月君、灯台下暗し、よ?」
「は?」
 話が通じなくて聞き返した月に、なんでわかんないのかなあと真紀は言いながら月の手に自分の手を重ねる。
「っ?」
 跳ね除けるほど早くはなく、だが確実に手を引いた月に声を立てて笑う。
 どうして笑われているか理解できていない月に、もう一度同じことを言った。
「灯台下暗し、だからね。夜神月」
 わかった? といわれてもわかった様子のない月に背を向けて、真紀は傍らに置き去りになっていた本を開いた。


作品名:For one Reason 作家名:亜沙木