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For one Reason

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Phase8.白紙



 その場所を、真紀は掘り起こした。
 スコップが固いものにあたると、そっと手を引く。
「ドット」
『なんだい』
「拾って」
 憑いている死神に頼むと、彼女の手が伸びてそのノートを拾い上げた。
 彼女がたしかにそれを持ったのを見て、真紀は穴を元の通りに埋める。
 ノートとともに置いてあった手紙を見下ろし、複雑な笑みを浮かべた。
「置いて」
『燃やすのか』
「そうよ。死神のおきてに問題はなかったわね?」
『リュークがこちらにこれなくなるだけだ』
「問題ないわ。焼きましょう」
 躊躇する様子を見せない彼女に、ドットは首をかしげた。
『弥には渡さないのか』
「これは」
 足元のノートを見下ろす。
 その黒い表紙のそれ。
「これは人を狂わせるものね」
 持ってきた新聞紙の上に置かれた黒いノートと、その上に手紙を置いて、真紀は油をかける。そしてそのままマッチをすって、火を、つけた。
 めらめらと燃え上がるその炎を見ながら、真紀は赤い炎を見つめていた。
「永遠にさようなら、夜神月」
 キラが敗北した瞬間だった。


 寝ているLを見やって、月はため息をついた。
 昼間、真紀に言われたことが引っかかっている。それと、自分がキラであるという確信も均等に月を蝕んでいた。
 どうしてLは、無防備に自分の隣で寝ていられるのか。
 たとえ月が今、キラの能力がなくたって――容易く、Lを殺すことが出来る。
 誰かが月を操っていたのだとしたら、いまここで、彼を殺させることだって。
「・・・僕に殺されたら、どうする気だよ、L」
 呼ばない名前をわざと呼んで、月は手を伸ばす。
 そこにあるはずのLの顔はやはりそこにあって、彼の顔は月のほうを向いて目が閉じられている。だから触れたのは髪ではなく頬だったし、ゆっくり動かせば目や鼻や唇に触れた。
 もう少し下には、性別にしては妙に華奢な首がある。
 そこを強く、掴んで、しまえば。
(Lは・・・死ぬんだ)
 彼は人だ、その点では月や他の人々と何も変わらない。
 キラが殺さなくとも、誰が殺さなくとも、月だってこのままでLを殺せる。
 ・・・月だけが、Lをこうやって殺せる。
(こう、握れば)
 片手を喉にあてる。頚動脈の脈打つ速さに彼が生きていることを改めて確認してしまう――確認するほどのことでもないのだけど。
 このまま、強く。
 そうすれば、彼は、死んで。
(死んで――それから?)
 それから、どうなるのだろうか。
 まずはこの手錠は外れるだろう。
 外れて・・・それで?
(竜崎の葬式なんか、しない、か)
 秘密裏に彼の死は、闇へ葬られることだろう。
 世界のLが殺されたとなれば、それは大問題だ。
(・・・僕は・・・僕も、そうしたら殺される、か)
 当然の結論に笑ってしまう。Lを殺したら、そんなのは当たり前だろう。どんなに良くても、あの監禁と類似の状況に置かれるのは間違いない。あの時だって精神がぎりぎりにすり減らされるのではと思うほど辛かったのに、今度は。
(今度は・・・)
 Lが死んで。
 殺したのが僕で。
 その罪で。
(――それなら、死んだほうが・・・)
 そこまで心の中でつぶやいて、月ははっと手を引っ込めた。
 そうだ、どうして――どうして、僕は。
 Lが死んだ後のことを考えると、こんなに苦しいのか。
「・・・わからない、竜崎」
 君が死んでしまっても、僕はそんなに嘆かないと思っていた。ただ、キラが遠のいてしまうだけだと、そんな漠然とした印象しなかった。
 だけど、君が死ぬと思ったら。
「――・・・嫌だな、かなり」
 少なくともそう思う程度に、自分は彼のことを親しく感じているのだろう。
 そう結論付けて、月は眠ることにした。
 わざわざ手錠を引っ張る体勢をとるのをやめて、Lに背を向けず目を閉じる。
 すう、と静かな寝息が響くころになって、ようやくLはその目を開いた。
「・・・月、君」
 名前を呼んで、綺麗な髪に指を通す。さらりと落ちたそれは、つかみどころがない、彼の心のように。
 それでもLは追いかけ続けるのだろう、ほんのわずかな可能性にかけて、彼を捉えられることを祈って。
「正直、月君になら、殺されてもいいかもと思っています」
 微笑んでそう告白して、わずかな明かりに浮かび上がる白い肌に指を這わす。
「月君なら――」
 絶対にそのことを忘れない。殺した相手のことを、忘れない。
 死ぬ最後の瞬間まで、想ってくれる。
――永遠に手に入らぬ人のそばにいるには、きっとそれが一番、確実。
「・・・きっと私は、天国にいけませんから」
 貴方がキラなら、よかった。
 きっとキラも、天国にこれない。
 そうすれば二人で天国で無い場所で会えたかもしれない、だけど。
「貴方には、天国以外のどこが、ふさわしいというのでしょうか」
 さすがに一度も言っていないけれど、全部が片付いて、まだ二人が生きていたら彼に伝えようと思った。
 まるで天使のようだと。


――Lが死んだ。
 どうやって死んだのか良くわからなかった。
 だけどLの体を抱きとめたのは僕だった。
 あのまぶたがゆっくりと落ちていき、そしてLは冷たく重くなった。
「りゅう、ざき・・・?」
 確認のためにつぶやいても、それが意味のないことはわかっていた。
 キラが、Lを殺したんだ。
「月、手を離しなさい、月」
 父の再度の呼びかけに、僕は震える手を必死に制御しようとした。だけど僕の指はLの遺体の入った棺から離れようとしなかった。固くあまりに固く掴んでしまって、爪が綺麗に塗装された棺に食いこんでいた。
「月・・・」
 困ったような父の声は、どうでも良かった。だけど、せっかくの棺に傷がついたら悪いと思って、手だけは離す。その棺はゆっくりと穴の中におかれて、左右から誰かが土をかける。
 Lが死んだ。
 彼の死後、文章がパソコンに浮かび上がった。
 そこには、僕を後継者とすること。Lの死は伏せこれからは「夜神月」がLになること。彼の持っている財産は全て僕に譲られること。キラの調査は僕の一存で辞めてもいいこと、が書いてあった。
 今まで人を殺していたキラを捕まえた瞬間にLが死んだ。
 謀ったようなタイミングだった。
「嘘だろ、L」
 認めたくなかった。
 だって、昨日まで笑っていたじゃないか。
 ケーキを食べて、角砂糖を積み上げていたじゃないか。
「信じないぞ、L。僕は・・・信じない」
 あっけなくLは倒れた。
 あれが演技ではないことぐらい、初めて人を看取った僕だってわかる。だけど、僕の理性も感情も、全力でその現実を拒否していた。
「僕にLを押し付けて、出来ないって参らせるのをまってるだけだろう? 僕にはLは出来ない、絶対に出来ない、だから降参だから、戻ってきてくれ、・・・」
 名前を呼ぼうとして彼の名前を知らないことに思い当たった。
 ・・・だけどそれが、何だって言うんだろうか。呼ぶ相手はもういないのだ、その名前を。
「僕には、教えてなかったくせにっ・・・!」
 その名前を、キラに知らせたお前が憎い。僕が掴めなかった名前を知ってしまったキラが憎い。
 勝手に死んでしまったお前が憎い。憎くて、憎すぎて。
「――う、っ、っ」
作品名:For one Reason 作家名:亜沙木