For one Reason
立ち上がって部屋を横切る。
しまった、油断した――今日はワタリもいないから鍵を持っていたのは・・・
「・・・・・・真紀、さん!」
部屋の電話を引っつかんで怒鳴る。それに答えたのは静かな声だった。
『怒鳴らないでくれよ、鼓膜が破れる』
「月君! どうしたんですか」
『・・・ちょっと仕事があったから。しばらくそこにいてくれるかな。ごめん』
「月君っ、月君!」
受話器に怒鳴っても答えは返ってこない。こちらの声が聞こえているのは承知で、Lは話し続けた。
「どうしたんですか、月君。真紀さんはどこですか。月君、月君・・・」
つぶやきはだんだん小さくなる。どんなに話しかけても答えがない。
部屋を出て捜査本部に行くという考えはなぜだか去来しなかった。彼が「そこにいてくれ」と言ったからかもしれない。
膝を抱えて蹲っていたLの肩に、そっと暗闇から伸びてきた手が触れた。
「竜崎」
「真紀、さんっ」
「行くわよ」
硬い声で言った彼女に、Lは顔を引き締めた。
ことん、と月はそれを机の上においた。
黒光りするそれの使い方は、知識として知っている。
安全装置をすでにはずされた拳銃は、静かに引き金を引かれる瞬間を待っていた。
「よし、と」
弾が装てんされていることを確かめて、月は一度引き金を引く。
パアンという音が響いたが、一発目は暴発防止の空砲だ。実弾は二発目からだから、これでやっと実弾になる。
(・・・もっと、早く)
こうすればよかったと思う。
結局、キラ事件の解決に自分は何も出来なかったけれど、ある意味でこれが一番の解決ではないだろうか。
「案外・・・軽いな。いや、重いのかな」
一人ごちて、月は拳銃を持ち上げた。
当てる場所は己の頭。
こんな形で父の拳銃を持ち出すことになって、どれだけ傷つけるかもと思うと本当に申し訳なかったが、これ以上月が生きていつかキラが戻ってきたことの損失を考えると天秤にかけるのも愚かだった。
月の引き金にかかった指がゆっくりと引かれる。
それは思っていたよりずっと、時間と覚悟が必要だった。
作品名:For one Reason 作家名:亜沙木