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みとなんこ@紺
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Doubt

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1.







ザクロスの町に着いたのは、日が暮れる直前だった。
東部と南部の境辺りの山間にあるこの町は、予想していた以上に遠かった。整備された昔からの街道近くにはあるのだが、いかんせん、渓谷にあるこの町は鉄道の路線はなく、まず最寄り駅からが遠い。
こんな時鉄道の輸送力なんかを思い知る。所属が東方司令部というのもあるだろうが、イーストの近郊は出歩けど、あまり地方までは行くことがない。
上司の護衛という名のお目付け兼お供で中央には行くことがあるが、あっちの路線はあくまでも本線。まぁそれでも本線から外れた路線の列車を乗り継いで、そこから途中までバスだ馬車だでも1日で来られるというのは、まだマシな方かもしれない。
東方司令部によく出入りしているどっかの兄弟の話を聞けば、公的な交通手段は何もなく、2、3日がかりで徒歩メインで行くようなところなどざらにあるようだし。
まずはここがそんな辺鄙中の辺鄙な場所でなくて助かった、と思うべきか。

当座の荷物をつめたリュックを無造作に背負うと、ハボックは辺りを見回した。
鉄道の路線から遠くとも、整備された道路のおかげで、そう取り残された感じはしない。田舎くさいのはどうしようもないが、場所柄から言うと十分拓けているほうだろう。
メインは林業くらいしかないはずだが、確か街道沿いに南と東へ抜ける分岐点の宿場町になっている筈だ。
まぁ電気はきているようだが、街灯まで回すような余裕はないらしい。町の中心街だろう広場や街道沿いにあるガス灯に順次灯を入れていく点灯夫の姿があちこちに見える。
さて、と方向を確かめ、手元の地図を見るフリをしながら、ハボックは歩き出した。
町の様子は至って普通だ。何か、があるような空気は微塵もない。夕食に近い時間柄か、女性の姿は少ないが、家の手伝いか、籠を抱えて通りを走っていく子供とか、これからパブにでも繰り出すらしい労働者風の男達ともすれ違う。
その彼らの顔もいたって平和なもので。誰も、何か、大真っ平に懸念事項でもあるようなそんな雰囲気はなく。
ざっと見るだに、この町は差し迫った問題を抱えているわけではないという気がした。
まぁ、水面下は知らないが。


それにしても、本当にこんな普通の何もない町にあの人は何をしに来たのだろうか。
普段は使いもしない連休まで取って。
半分、中尉に脅されて取ったような休暇ではあったが、これ幸いとばかりに上司がこんな所まで遠出をするのは珍しい。
まぁ休暇だと知れれば、一部待ってましたとばかりに攫いに来る中央の某中佐とかもいるにはいるが、それでも中央はイーストとは直通の特急などで繋がっている為、ここより距離はあれど、こんな辺鄙な町よりは余程短時間で行き来できる。
なにせいつ何時、自ら指揮しなければならないような事件が起きるとも限らないのだ。
あの人は一応任務兼、での休暇でもない限り、有事の際には強制的に召還されるような立場にある。だからこそ、こんなすぐには帰って来れないどころか連絡一つすら怪しいこんな遠方までやってくる理由が分からない。
・・・まぁ色々ありそな人なのでまったくの無意味ではないんだろうが。とりあえずその辺を明かしてもらうのは本人を捕まえてからだろう。
とか言いつつその辺はあくまでも、大佐個人のプライベートな事なので、あえて首を突っ込もうとは思わないが、興味がないわけでもなく。
飄々としているだの、本音が見え辛いだの、結構色々回り(マスタング組の面々は勿論除く)では言われているらしいハボックだが、どれだけ怠そうに見えても、やる気なさげでも、人並みに好奇心はあるので。
なので、今回の上官&同僚のごく一方的な(とハボックは思っている)指示にも一応従ったのだ。




事の初めはまず、現在行方知れずのボスが3日の休暇を取った所からだ。
明日からの休みどっか行くんですか?と何の気無しに聞いてみれば、夜には出るのに何も用意していない、と面倒そうな答えが返ってきた。何処へ、とは言わなかったので、また中央かなぁくらいにしか思っていなかったのだ。
いないならいないで何か不思議だなぁとか何とか思っていたのがその翌日。
その日に、ホークアイ中尉に連絡が入った。
正しくは、まずその日の午前中にヒューズ中佐の家に電話が来たらしい。
電話を取ったグレイシアより中佐に即伝言が伝わり、そちらから中尉へ。
そして先遣隊として、自分がココにいる、と。

まずは宿へ行って状況確認、そして何か不穏な動きはないか、現場となっているこの町の現状確認、大佐の足取り追って、あわよくば見付けられれば良し、無理なら司令部へ即連絡、と。
流れをざっと頭に浮かべるが、時間の事を思えば、ちょっと苦しいか、とハボックは眉を寄せた。
本来なら、有休も余りまくっている上司の事。大佐の筆跡を真似られるという中佐の無駄な特技を発揮していただいて、休暇の延長というか書類の改竄とかを出来なくもないのだが。
あの上司の日頃の行いの賜物か、日にち的にはまだちょっとばかり余裕があった筈が、数日後には中央の将軍が訪問してくるというのだ。
「今、東部はまだ安定している時期だから」
「だから今のうちで来るってんで?」
「その辺りの見極めはぬかりない方ね」
名前だけ聞いても何だか顔が思い出せないが、ブレダには心当たりがあるらしい。
「・・・あの陰険そうなおっさんですか」
「そう、つまらないことを議題にあげるのが趣味な」
「・・・・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・私が言ったわけではないから」
「・・・あい」
名前くらいしか知らない相手だが、大佐だけでなく、中尉も面倒くさいと思ってるようなのが相手だということはよくわかった。
こんないらん時に、とその場にいた3人は3人ともが舌打ちしたい気分だったに違いない。間の悪い事に動かしづらいリミットは切られている。
良くも悪くも人気者な上司を持つと苦労する、とここは嘆いた方が良いだろうか。
「ハボック少尉」
中尉の呼び掛けに、ハボックはため息で答えた。
「判りましたよ。2日以内にとっつかまえてくれば良いんですよね」
「背後は中佐が調べて下さっているけど、今の所これといって問題になりそうなめぼしい情報はないのよ」
「相手が全然見えてこねぇからな。あんま深追いはするなよ」
「わーってるって。…でも、ここで急にオレに連休って許可降りますかね」
「降ろしてもらうからそれは大丈夫よ。シフトもこちらで調節するわ。すぐ出発してくれるかしら」
「イエス、マム」
しかし情報を扱う上で、自分たちはヒューズ中佐以上の人を見た事がない。その中佐ですら、まだたいして何の情報もないというのが少々どころでなく不気味だ。そう思えば、あまり気楽に構えてもいられない、か。
今現時点で判明している事を纏めた書類を受け取りながら、ふと思う。
・・・それにしても。
「・・・いたらいたで色々大変で、いないならいないで更にコレってどうなんですかね・・・」
ぽそ、と呟いた一言に、溜め息以外の答えは返ってはこなかった。



作品名:Doubt 作家名:みとなんこ@紺