フリークスの楽園
● 禁断の果実
どこで間違えたのか、それは分からない。けれど確かに臨也は、間違えてしまったのだ。
「俺はさ、見ていたいんだよ。シズちゃんが殺したくて殺したくて殺したくて殺したくてたまらなかった俺を相手に、惚けたツラで笑って見せるのを、心の中であざ笑っていたいわけ。もうちょっとそんなシズちゃんを見ていたいんだよ。ねえ新羅、聞いてる?」
「聞いてるよ。君は静雄の笑顔を見ていたいんだね」
なんだか意図的に捻じ曲がった解釈をされた気がする。だが、反論しようとすると、おかしなことだが言葉に詰まる。しかたないので、反論は諦めて先を続けた。
「でもさ、シズちゃんが惚れてて、笑いかけたり甘えたりする相手は、ずっと殺し合いをしてきた俺じゃなくて、このほんのちょっとの間の、シズちゃんのことを忘れてた俺なわけだよ。バラしたら、もう、笑ってくれないだろ」
「そうだね。それどころか、君のことを更に憎み嫌悪することになるね」
新羅の言葉は、どこまでも正確で的を射ている。怒っているのか、と感じていたが、どうやらそうでもないらしい。新羅の視線はまっすぐで、その黒い瞳はどこか憐れんでいるようですらあった。そして新羅は、言葉を続ける。
「静雄に笑っていて欲しいなら、君は、静雄に会って過ごしたこの7年間をすべて否定して、その滑稽な芝居を続けないといけないね。静雄が気付いてしまうことに毎日怯えながら」
7年間。けして短くはないその年月を、臨也と静雄と関わりながら過ごしてきた友人は、眼鏡の硝子越しに、まっすぐ臨也をみている。そして温度を感じさせない声で続けた。
「臨也。それが、君の罰だよ」