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病院に運ばれて、手術室に帝人は運ばれていった。
手術中、その赤いランプはまだ消えない。
もうどれくらい時間が経ったのかも、分からない。
ただ、臨也は呆然と手術室の前で立ち尽くしていた。
「……みかど、くん……」
ポツリと呟いた声は、静かな病院の廊下に響く。
そんな時、突然パタパタと走る音が聞こえた。
「……紀田、正臣くん……?」
走ってきたのは、正臣だった。
今朝会ったばかりだというのに、酷く昔のことに思える。
「臨也、さん!?……帝人、帝人は!?刺されたって、聞いて…、俺っ……!」
「……まだ、手術中……」
それだけ言って、そっと手術室を指差すと正臣は一瞬呆然と、信じられないと言わんばかりの顔をして、次の瞬間には臨也の首もとを掴んでいた。
「なんで…っ、帝人がっ!……アンタが、アンタが帝人を……!」
「違う、俺は、刺してないっ!けど……」
自分が居なければ、自分なんかを庇わなければ、きっと帝人は刺されなかった。
非日常の塊で、人に沢山の恨みを買っている自分が関わって、ろくな事にならないことは、ずっと前から分かっていたはずだった。
けれど、帝人の優しさが、心地よくて、ずっと縋っていた。
(……これは、俺のせいだ……!)
認めてしまったら、死にたくなるほど辛かった。
涙が溢れてきて、視界が真っ白になる。
「アンタ……、っ」
そんな臨也の顔を見て、正臣を一瞬虚を突かれたような顔をしてから、バッと臨也を離す。
「……殴らないのかい?」
「………そんな顔してるやつ、殴れる訳ないだろ……!!」
正臣はそれだけ言うと、それきり黙り込んで手術室の前の椅子に腰をかけて、祈るように扉を見つめるのだった。
臨也も、口を閉ざして再び扉の前に立ち尽くす。
再び、周りは静寂に包まれるのだった。




手術に要した時間は、長かった。
けれど予断は許されない状態で、帝人はまだ闘っているんだと臨也は思った。
治療室に居る帝人を硝子越しに見たら、帝人には沢山の配線がくっつけられて、酷く痛々しかった。
(あれも、全部俺のせいだ)
「……臨也」
ガラス窓にもたれ掛かるように、ひたすら帝人を眺め続けていた臨也に突然声が掛けられる。
「……シズ、ちゃん?」
「………竜ヶ峰、どうなんだ」
どうしてここに、とか色々思うことはあったが考えるのは面倒臭かった。
そして説明するのも、酷く億劫だった。
だから、ジッと帝人の方を見つめて無言で居ると、静雄にしては珍しく察したのか、何もそれ以上聞いてこなかった。
「……ねぇ、シズちゃん」
「………なんだ」
「人って、不思議だよね。こういう時になって、思うんだ」
「……?」
いつもなら、臨也の理屈っぽい言葉を嫌う静雄だったが、死にそうな、この世の終わりと言わんばかりの表情で臨也が語り出したから、口を挟まずジッと聞いていた。
「……なんで、こんなことになっちゃったんだろ、とかこうすれば良かったとか、……あと、あんなこと言わなきゃ良かった、とか色々考えるんだ」
「臨也……」
「ねぇ、シズちゃん。俺さ、最後に帝人くんに何て言ったと思う?」
「……?」
分かる訳もなく、静雄が黙っていると、臨也は掠れた声で呟いた。
「大嫌い、って……、言っちゃったんだ……」
「臨也……」
「悪いことばかり、考えるんだ……、このまま、帝人くんが、目を覚まさなかったらって、……死んじゃったら、どうしようって……!」
静雄は、弱り切った臨也に何も言わなかった。
それが静雄なりの優しさだったのかもしれないが、もうどうでもよかった。
それから、ずっとずっと臨也は治療室の前に居た。
誰かが入れ替わり、立ち替わり、やってきていたような気もする。
誰かに声をかけられたような気もするが、泣きすぎて頭がグチャグチャで、よく覚えていない。
二日目になっても、帝人は目を覚まさなかった。
もう、限界だった。
「……ごめんね、帝人くん」
二日目の夜、そう呟いて臨也は初めて治療室の前から離れたのだった。


作品名:リセット 作家名:七草リメ