リセット
真下を見下ろすと、真夜中の暗がりだっていうのに下のアスファルトが良く見えた。
病院屋上、八階。目測して約二十五メートル。
落ちたら、そう多分奇跡でも起きない限り死ぬ高さだ。
(……まぁ、俺はもう奇跡なんて言葉、信じないけどね)
奇跡があるというのなら、こんなことにはならなかったはずだから。
臨也はフェンスを乗り越えて、一歩踏み出せばアスファルトに一直線という位置で、ぼんやりとそんなことを考えていた。
「……、帝人くん。ごめんね」
それは、何に向けて謝罪したのか、臨也自身よく分からない。
多分色々あったけれど、それら全てに対するモノだろうと、うっすら思った。
臨也はそっと目を瞑って、そして次の瞬間にはアスファルトへ向けて、一歩を踏み出していた。
死ぬのは、自分のはずだった。
血塗れになって、倒れるのは、自分のはずだった。
配管を沢山繋がれて、生死を彷徨うのは自分のはずだった。
帝人があんなことになったのは、全部、全部全部自分のせいなのだ。
きっと、このままもし帝人が助かったとしても、もう一緒に居られないと思った。
罪悪感で、押しつぶされそうで、そして自分の生きてる意味もよく分からなくて。
(あぁ、でも……)
真っ逆さまに落ちながら、臨也はポツリと呟くのだった。
「大嫌いって、言ったの……、謝りたかったな」
その声は誰に届くことなく、臨也は意識を失うのだった。
置いてかれるのが、辛かった。
でも置いていくのも辛いのだということに今の臨也はまだ気づいていない。