リセット
「ん……」
眩しい。最初の感想がそれだった。
目を開くと、一瞬くらりとするくらい、明るくて、さっきまで自分は夜中の病院の屋上の上に居たのだから、きっとここは黄泉の世界か何かなのだろうかと臨也は思った。
「……は……?」
しかし、光に目が慣れてきて辺りの光景を冷静に見渡して臨也は目を丸くした。
純粋にここまで驚くのは本気で久しぶりな気がする。
それほどまでに、臨也は驚いた。
「なんで……、ここに……」
結果から言うと、臨也の目の前に広がる光景は黄泉の世界でもなんでもなかった。
見慣れた風景。
それは池袋にある、とある公園だった。
そしてここは、
(……俺と帝人くんが、いつも待ち合わせに使う公園)
なんで、どうして。色々な思いが過ぎったが、臨也は咄嗟にコートのポケットに手を突っ込む。
そこには、いつも入れてある携帯が入っていて、臨也はおもむろにそれを取り出して開く。
「……、そんな、馬鹿な……」
臨也は、そのディスプレイに映る時間と日付を見て呆然とするのだった。
それは、丁度二日前。臨也と帝人が遊ぶ約束をした、あの日で。
そして時間は、待ち合わせの3分前だったのだった。
これは、果たして奇跡なのか。それとも、別の意味があるのだろうか。
しかし、それを考えている時間は、あまりない。
「どういう、こと……?」
考えてみても、答えは出ない。
ベタにほっぺを抓ってみたけれど、痛いだけだった。
(……状況は、良く分からない。俺は飛び降りたはずだったのに)
最悪生きてたしても、病院のベッドの上のはずだ。
けれど、五体満足怪我無しでしかも二日前に戻るなんて。
(……こんな、非科学的なこと……、信じちゃいなかったけど)
臨也はもう一度携帯の画面を開いて、日付を確認したが、やっぱり二日前だった。
(……意味は分からない……けどこの際、夢でもなんでもいい……!)
回避できるのなら、回避してみせる。
時計を確認すれば、丁度待ち合わせの時間だった。
けれど、帝人は現れない。正臣に捕まって、珍しく遅刻しているはずだ。
臨也は携帯を弄ってメールを開く。
そして帝人へ「今日は仕事が入って、遊べなくなった」と簡潔にメールを送って、携帯をポケットへしまった。
(今日、帝人くんに会わなければ良い。そうれば、帝人くんが刺されることは、ありえなくなる)
だから、今日は会わないでおこう。
臨也はそんなことを思いながら、待ち合わせ場所である公園から出て行くのだった。
二日前とは、逆の方向へ向かって。