リセット
「帝人、頼むから考え直せ」
「ちょ、正臣しつこいよ!臨也さんは確かに変な人ではあるけれど、結構良い人だよ?」
「駄目ダメだめ!そういう考えが甘いの!あの人は絶対、危険だ!」
久々の臨也の休みに、遊びたいと臨也が言ってきた。
正直嬉しかったし、帝人は結構早めに家を出ていた。
だがしかし、正臣と偶然会ってしまって足止めを食らっていったのだ。
臨也と会うことを黙ってれば良かったな、と帝人は内心で後悔しながら溜め息をつく。
「帝人ー、最初にも言ったけど、臨也さんとは関わるなって!」
「……そんなこと、言われても」
実は、付き合ってます。
なんて、口が裂けても正臣には言えない。
どう言い訳して、この場をくり抜けようかと考えながら、ふと近くの時計に目をやれば、もう待ち合わせの時間を過ぎていた。
そんな時だった。
(……メール?)
ポケットから鳴り響く受信音に帝人はハッとする。
その受信音は臨也から届いた時のみに鳴る受信音だったのだ。
「おーい、帝人。俺の話ちゃんと聞いてるかー?」
「あ、ちょっと待って」
正臣を軽く流しながら、帝人はそっと携帯を開く。
もしかしたら待ち合わせ時間を過ぎたので、臨也が痺れを切らして怒っているのかもしれない。
そんなことを思いながら帝人は焦ってメールを確認する。
「え……?」
しかし、メールには簡潔に今日は仕事が入って遊べなくなったと伝えているだけだった。
(……臨也、さん……?)
「どーしたー、帝人。ドタキャンでもされたか?」
「……されちゃった、みたい」
「マジでか」
呆然と携帯を握りしめたままの帝人に、流石の正臣も少し焦っているようだった。
「あー、ほら、まぁ、あの人気まぐれだからな。気にすんなって」
「……いや、……なんか、臨也さんがドタキャンなんてするの、初めてだから少し驚いただけだよ」
「…………マジで?あのドタキャン王で自由奔放のあの臨也さんが、初めてのドタキャン……?」
正臣は思わず眉を顰めて唸る。
自分が思っていたよりも、臨也は帝人に対して本気なのかもしれないと思ってしまった自分が何となく、嫌だった。
「……臨也さん、何かあったのかな」
「いや、ただ単に仕事だって」
「…………、自惚れとかじゃ、ないけど、臨也さんは仕事よりいつも僕を優先してくれた」
「はい?」
「……やっぱり何かおかしい」
「あ、おい帝人!!」
ギュッと携帯を握りしめた帝人は、次の瞬間には掛け出していた。
もしかしたら短気で気まぐれな臨也だから、待ち合わせに遅れた帝人に怒ったのかも知れない。
(あの人、変なところが子供みたいだし……)
滅多に休みのない臨也が、久しぶりに遊ぼうと言ってくれたのだ。
そんなくだらないことで、予定をキャンセルされたくない。
それに、もし本当に仕事なのだとしても少しで良いから帝人は臨也に会いたかった。
メールを送ってきた時間から考えても、きっと臨也は池袋に居るはずなのだ。
(……臨也さん……!)
精一杯走り出した帝人の遙か先には、臨也が居る。
それはまだ距離にすれば、遠いけれど、決して遠すぎるという距離でもない。
走り出した帝人が、遙か先に居る臨也と遭遇するまで、あと……。