リセット
運命という言葉を、信じているか。
そんな言葉を臨也は鼻で笑って否定したことがある。
けれど、運命という言葉を大いに信じている馬鹿な医者の友人に、運命論とかいうふざけた本を押しつけられたことがある。
馬鹿にしていた臨也ではあったが、なんとなく暇だったから、暇つぶしにその本を読んだ。
本当に暇だっただけで、やっぱり興味は沸かなかった。
正直、面白くも何ともなかった。
その本の内容なんて、今の今まで覚えてなんていなかったけれど、けれど臨也はこの瞬間唐突にその本の内容を思い出してしまった。
一度死ぬという運命を辿った人間は、例え過去に戻ろうがそれを回避することは出来ない。
運命という名の大きなうねりは僅かな抵抗やズレ如き、修正してしまうからだ。
刺されて死ぬはずだった少年が、車に跳ねられて死ぬかもしれない。
するとどこかで、少年を刺すはずだった人は別の人を刺してるだろうし、少年を撥ねた人は少年が居なければ違う人を撥ねていただろう。
人を刺す、死ぬ、撥ねる、全ては運命という名の道筋によって定められているのだと。
そんな実証しようもないことを、何故本にしてるんだと、臨也は馬鹿にしたような気がした。
けれど、今のこの状況をピタリと言い当てているその本の内容に、臨也はどうしようもなく苛立ちを覚えた。
「帝人、くん……!」
臨也が帝人の身体を抱きしめるのと、車が突っ込んでくるのは、ほぼ同時だった。
全てが定められているというのなら、一体臨也は何のために過去に来たのだろうか。
もしかしたら、あの日飛び降りて死ぬはずだった自分がこの日死ぬはずの帝人と一緒に死なせてくれる為だったのだろうか。
それとも、
「帝人くん……、ごめんね」
「いざや、さ…ん…?」
あの日、謝れなかった言葉を言わせてくれる為だったのだろうか。
どちらにしても残酷な話だと、思う。
(……本当はね、置いていくのも、置いていかれるのも、嫌だったんだ)
(だから、帝人くん……、俺と、一緒……に…、)
宙を綺麗に放物線を描き、帝人を庇うように抱きしながら、臨也は意識を手放すのだった。