一等星に告ぐ
なんて我侭なのだろうと思う。ほんの少しのしあわせでもいいから、欲しいと願う人だってこの世にはいると言うのに。
それでも。
(俺はしあわせになりたいんだ。あの時のように)
アメリカはそう願ってしまう。
一等星が濃紺の空にひときわ瞬く。その眩い星は夢中で空を見つめていたあの時から変わらずアメリカの心を照らしあてくれるのだ。
なんてうつくしく、眩い。
きっと星は変わらない。好き勝手に瞬いているだけで、アメリカの気持ちを慮ってなどくれやしない。それでも、今まで見つめてきた中で一等眩くうつくしく輝いて見えるのは気のせいではないのだ。
右肩にとても重たい酔っ払いを乗せていて、シチュエーションとしては最適と言いがたいかもしれないが、それでもアメリカただひたすらうつくしいものを見つめている。
静かな夜の中をアメリカは歩いていた。酔っ払ったかつての兄貴分を連れて。アメリカよりも大分年上の男は、この年になっても飲み方を改めることをしないので、二人で飲みに行く度、へべれけに酔っ払った彼をアメリカがこうして連れて帰るのだ。
時々、その役目がひどく面倒だと思うことがあったが、今のところ飲み屋に放置していくようなことはしていない。二人で飲みに行く時にかぎり、いつもより速いピッチで盃を傾ける、その理由を知っているからだ。
(俺の、せい)
イギリスは決して忘れないのだ。どんなに時が経とうとも、決して。アメリカの、彼からすれば手ひどい裏切りを、笑顔の裏側で恨んでいる。
お互いともそれに気が付いていたが、どちらも指摘したことはない。二人は既に見たくない過去をなかったもののようにしてしまっていて、今更古い傷を引っ張り出しても泥沼になるだけなのが分かっているからだ。
傷つくくらいなら、見なかったことにする。
いつものアメリカならば、容赦なく暴こうとするだろう。曖昧なものを嫌う若い青年は、傷つくことも辞さずに、まっすぐと物事に対して当たる。けれど、ことこの件に関してはそれも出来ない。傷つくのは自分だけではないから。もう、雨の中涙を流すイギリスの顔は見たくない。
(それでも謝れたら、と思う。俺のエゴでしかないのかもしれないが、もし謝れたら俺も、彼も今度こそ幸せになれるかもしれない)