一等星に告ぐ
ぽっと浮いた考えに小さく首を振る。あまりにも、自分勝手すぎるだろう。自分の気持ちを楽にしたいが為に既に終わったことを引っ張り出そうとするなんて。
きっと心の裡をイギリスが知ったら怒るに違いない。お前の勝手に振り回されるのはごめんだ、と。アメリカとて、それは望まないところだ。
それでも。
かつて二人で見た空とよく似た空が一面に広がっている。こんなに近くでイギリスの熱を感じているというのに、アメリカは寂しかった。叫んで走り出したくなるくらい、寂しくて、こわかった。夜が恐ろしかった。
「君は、しあわせかい?」
あ、と気付けば言葉が零れていた。怖さを紛らわすように、次々と言葉が口から出て行く。
「日本はね、よく言うんだ。アメリカさんは満ち足りていらっしゃるんですね。いつも幸せそうに笑ってますって。でも俺は自分が心からしあわせだとは、ここ最近思ったことがないんだ」
小さく息を吐く。
「はるか昔。君と共にいることが当たり前だったあの時。俺はずっと満ち足りていた。あの時こそ、俺は堂々としあわせだ、と叫べただろう」
「最近、思うんだ。あの時もしも君の元を離れなかったらどうなっていたんだろうって。俺は今も幸福でいられたのかな。君と一緒にくだらないことで笑っていられたのかなって」
「勝手だよね。自分から捨てたくせに、また拾い上げようとするなんて。今の俺には昔のしあわせなんて大きすぎて手にあまるっていうのに」
上を見てみれば、一等星がどんな光よりも強く輝いている。なんてやさしく、なんて力強い。暗闇からアメリカを引っ張り上げてくる一等うつくしい星。
「……すまなかった、イギリス。君はきっと俺を恨んでいるだろうし、憎んでいるだろう。でも、寂しいんだ。君が見えなくて。こわいんだ。君が傍にいないと。俺の前には底なしの闇しかなくて、君という一等星がないと、まともに歩けやしないんだ。俺を、俺を許してくれ。虫がいいと殴ってくれて構わない。それでも、俺は、」
「ばっかや…ろ……」
不意に耳元で声が聞こえた。震えるような声は、アメリカの心臓を軽く跳ねさせ反射的に立ち止まらせてしまう。