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一等星に告ぐ

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 まるで止まり木から飛び立つかのように、イギリスはふらふらと危うい足取りでアメリカの真正面に立ち、彼のブルーの瞳と己のグリーンの瞳をかち合わせた。その美しき双眸たちが交わるのは大変久しぶりなことで一瞬お互いひどい違和感に苛まれたが、どちらも一度たりとも瞳を逸らしたりはしなかった。
「おおばかやろう」
 ぎゅっと唇を結んだイギリスの瞳からぽろぽろといくつかの涙が落ちてくる。それは結局つきつめてしまえばただの水でしかなくて、うつくしいところなど一つもないのだけれど、アメリカの瞳にはぽろぽろと落ちる水滴はこの世でたった一つしかないうつくしいものに見えた。
「いつ俺がお前を許さないと言った。お前はもうとっくに許されてんだ」
 手を伸ばすと温かい涙に触れた。人差し指を温める優しい水がすうとアメリカの中に染み込んでゆるりと全身へと流れてゆく。それはとても彼を落ち着かない気にさせたけども、それと同時に大層しあわせにもしてくれた。ああ、こんなにもあたたかいものは近くにあったじゃあないか。
「今やっと知ったよ。俺はずっと幸福だったんだ。あたたかいものは本当に近くに存在していたんだ。ただそれに気付かないで寒い寒いと凍えていただけなんだ」
「おせえよ、ばかやろう」
「……ごめん、イギリス。そして、ありがとう。俺は君の言うとおり大馬鹿野郎だ」
「お前はばかだ。この世で一番のばかだ。この世でしあわせじゃないものなんてねえんだよ。何から何まで幸福に包まれてんだ。そんなことも知らないだなんてお前はばかすぎる」
 果たしてその声は涙声で、なんだか気の抜けるような心持ちにさせられるのだけど、緩んだのは心でなくアメリカの涙腺であった。何もかもを見通せるテキサスも今は役に立たない。イギリスの輪郭は曖昧に滲んでゆく。ぽろぽろ、ぽろぽろ。涙は止めどなく流れ、落ちてゆく。
「ばぁか。なんて顔してやがる」
「それはこっちの台詞だぞ」
 涙はずっと苦しいものだと思っていた。心臓を削って作り出したかのように痛みと苦しみをいつだって介在していた。だけど、どうだ。今流れる涙はこんなにもやさしく、こんなにもうつくしいじゃあないか。
「おかえりよ、俺のかわいい弟。お前は俺がしあわせにしてやる。うんざりするくらい甘い砂糖菓子のような幸福に浸させてやるさ」
「ただいま。俺の幸福」
作品名:一等星に告ぐ 作家名:ひら