未来について
「大浴場?多分ないかな。でも部屋に温泉引いてるって」
「へえー!すごい!」
小走りで浴室の方に向かった健二は、浴室のドアを開けてまた小さな歓声を上げる。
「すごい広いよ、佳主馬くん!」
「良かったね。お湯、溜めておこうか」
「うん!」
頷いた健二がさっそく蛇口をひねるところを見て、このホテルにしてやっぱり良かったと佳主馬は一人頷いた。
食事は部屋でとることに決めてあったので、それを待つ間、二人はベッドの上でだらりと過ごした。
「なんだか、いいねえこういう時間……二人とも休みが合うこともあんまりないし、時間もなかなか合わないし」
「うん」
二つくっついたベッドの隅で寝ころんでいた健二がしみじみと言う。頷いて、佳主馬はそのすぐそばまでごそごそと近寄った。
「一緒に住んでると、こうやってくっつくこともあんまりなくなった気がする」
「え、えー……?そうかな?それは結構……」
やるよね、と口を尖らせた健二の言葉を遮るように、佳主馬の唇が落ちる。
「はしゃいでる健二さんなんて初めて見た」
「……そんなに簡単にキスしようとする佳主馬くんだって初めてだよ」
頬を赤くして言い返す健二の髪をくしゃりと撫でて佳主馬が笑った。
しばらくべたべたしていた二人に隙間を作ったのは、食事が運ばれてきた音だった。部屋のチャイムの音で飛び跳ねて、慌てて起き上った佳主馬が部屋のドアを開ける。
くしゃくしゃに撫でられて乱れた髪の毛を整えながら、健二は赤く火照った頬をぺしぺしと両手で叩く。テーブルの上に並べられていく豪華な食事を見れば、その恥ずかしさもどこかへ飛んでしまった。
「すごい!」
「おいしそうだね」
「うん!」
和食と洋食で選べたメニューは、洋食派の健二のために迷わず洋食を選んだ。食事に手を付けた途端すっかり健二の口数が減る。
「おいしい?」
「すっごく……」
もぐもぐと口を動かして幸せそうに頷く健二を見ているだけで、佳主馬の頬も緩んだ。
「食べたらお風呂入ろうか。移動、疲れたんじゃない?」
「ん」
頷く健二の頬に付いたクリームを指先で取って、ぺろりと舐める。顔を真っ赤にした健二が怒るのすら、幸せな時間だった。
「健二さんまだ?」
「、や、やっぱりやめる……」
「何言ってんの。服脱いだんでしょ、早くおいでよ」
「だってお風呂、狭くなるよ!」
「狭くないよ。広いって言ったじゃん」