未来について
とっくに服を脱いで浴槽に浸かっていた佳主馬が、待ちくたびれて立ち上がる。ドアの前で恥ずかしがってなかなか入って来ない健二に焦れてドアを開けた途端、健二は驚いたように小さなタオルで前を隠した。
「今さらじゃん、ほら早く」
細い手首を掴んで引くと、よろけながらも健二は大人しく佳主馬についてくる。先に浴槽に浸かった佳主馬が促すようにまた腕を引っ張ってやれば、やっと覚悟を決めたように健二が向かい合わせに座った。
「ほら入れる。狭くないじゃん」
「……うん」
小さく膝を抱えて俯く健二が不満で、佳主馬が眉を寄せて健二の腕をまた掴む。
「健二さん、こっち」
「え?……わ、かずまくん!」
ばしゃんと水しぶきが上がった。突然腕を引かれたせいで水の中でバランスを崩した健二の体は、あっという間に佳主馬の膝に収まっていた。
「向かい合わせだとさすがにあれかな」
健二が呆気に取られている間に、くるりと体をひっくり返される。
佳主馬の足の間にすっぽりと収まった健二は、自分の置かれた状況を理解した途端にばしゃばしゃと水を掻いて抵抗した。
「わっ、健二さんちょっと、暴れないで」
佳主馬が怯んだのは一瞬だけで、あっというまに両腕とも佳主馬に制される。やすやすと封じられた両腕を動かそうとしても、佳主馬の腕はびくともしなかった。
「こんな時くらいべたべたさせてよ」
「いつもべたべたする癖に……」
あやすように体を揺らされて、健二は仕方なく抵抗するのを諦める。
「あれ、ほんとにべたべたさせてくれるんだ」
「……せっかくこんなホテルだし」
言い訳のように口にして、健二は濡れた頭をことりと佳主馬の胸にに預けた。
「温泉、気持ちいいしね」
「それはよかった」
佳主馬が腕を解いても、健二はもう抵抗しない。揺らぐ水面の中で、健二の手が湯を掻いて遊んだ。
「毎日お疲れ様」
「うん、佳主馬くんこそ」
揺れていた手が佳主馬の手を掴んで、マッサージのつもりなのか手のひらを押し始める。くすぐったさに笑った佳主馬が掴まれていない方の手で健二の額を撫でた。
「こういうのいいなあ…。健二さんが出かけるの嫌いなのはわかってるんだけど、またこれたら嬉しい」
「まだ一泊目だよ。明日もあるよ」
「そうだけど、そういうことじゃなくって……」
かみ合わない会話に焦れた佳主馬に笑いながら健二が頷く。