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いざ飛ばむ、神のゴミ箱、或いは世界

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セルティの云っていた、「あいつ」っていうのは臨也のことだろう。臨也の処から帰って来てからセルティの様子がおかしかった処からすれば、臨也は真っ黒だ。
全く困ったものだ。臨也は自分が面白いか面白くないかで、生きている節がある。きっと暇潰しとばかりにろくでもないことを話したんだろう。
セルティはしばしば「私も人間だったらよかった……」と云う。そんな彼女に、臨也は時々意地の悪いことを云うのだ。以前にも、セルティが怒って帰って来た。前科がある、間違いない。
「……全く困ったことをしてくれる」
そう口に出してみたら、妙に自分の声が部屋に響いて、余計に淋しくなった。
セルティは何処に行ったんだろう?



……結局、二日間セルティは帰って来なかった。今夜でもう三日目。一体何処で何をしているやら。一昨日は大人しく過ごした。昨日は、色んな人に聞いて廻った。今日は、街中を探し歩いた。其れでも、手掛かりは無し。まぁ、凡人の僕がセルティを探すってこと自体、もう御話にならないことなのかも知れない。
杏里ちゃんの処にいるならいて欲しい。ちょっと嫌だけど、帝人君でも静雄のところでも構わない。セルティが無事ならいいんだ、……あんまり良くないけど。でも、やっぱり出来ることなら僕の処へ帰って来てくれると嬉しい。
セルティがいなくなってから、上手く眠れなくなった。ベッドに入って目を閉じても、如何しても気になってしまう。セルティは強いから、まぁ無事なんだと思う。実を云うと其の点は、云う程心配していない。怖いのはもっと別のことだ。
此の儘、彼女がいなくなってしまったら……。
其れを考えると怖くて堪らないのだ。只でさえ其れが怖くて、首の在り処を知っていたのに、僕はセルティに黙っていたことがある。其れはもう済んだ話で、セルティも僕を愛してくれているのを分かったから、僕も安心していた。
けれど、理由が仕事以外で、セルティとこんなに距離があるのは久しぶりだし、何より精神的に遠くなってしまった。
彼女はもう僕を必要としていないのかも知れない。本人がそう云ったわけではないのに、僕は最悪の事態ばかり考えてしまう。そうなった時の、保険のつもりなのかも知れない。
「人間というものは本当によく出来てる」
そう嫌味を云って、僕はハルシオンの青い錠剤を噛み砕いた。


「皆が僕を変だって云って、仲間はずれにするんだ……」
僕がそう云うと、セルティがいつも持ち歩いている厚手のスケッチブックに筆を走らせる。
『へんって、なにがへんなんだ?』
やっと慣れてきたらしいセルティの平仮名のみの文を読み、僕は答える。
「今日学校で、飼ってた兎が野良犬に殺されたんだよ。皆可哀想だって云ってたけど、僕はそう思わないって云ったんだ。そしたらおかしいって、普通じゃないって……」
其れから、関係無い父親のことを云われたり、母親がいないことについても云われたことを僕はセルティに話した。僕は悔しいやら情けないやらで、話している途中から泣き始めてしまう。セルティはおろおろしながら、僕にティッシュの箱を寄越すと、スケッチブックに何やら書き始める。
『ふつうって、なんだ? みんなのいうふつうってなんだろうか』
そう云うセルティに、僕は「分からない」と首を振った。
『わたしにもわからない。そもそもふつうって、ないのだと、わたしはおもう』
「ないの?」
『だって、このせかいにかんぺきなにんげんなんているか? どんなにきれいなひとでも、せいかくがわるかったり、あたまがよくても、うんどうができなかったりするな?』
「うん、ぼくも逆上がりまだ出来ない」
『わたしはおもうんだ。このせかいっていうのは、かみさまのしっぱいさくがよせあつまってるんじゃないかって』
「失敗作?」
『うん。新羅、せいしょはよんだことあるか?』
僕は黙って頷く。セルティが僕の名前の漢字を一番初めに覚えてくれたのが嬉しかった。
『かみさまはせかいをつくったけど、このせかいにかんぜんなものなんてないんだ。だから、かんぺきなひとなどいない。かんぺきなものをつくろうとして、でもできなかったけっかが、ほうりこまれてるんじゃないかって、わたしはおもうんだ』
「なぁに其れ、まるでごみ箱じゃない」
僕がそう云って笑うと、セルティは可笑しそうに肩を揺らして、『ごみばこ、そうだ、かみさまのごみばこだ!』と云った。


……おはようございます。随分懐かしい夢を見た。まだ僕が小学生の時の思い出。あの話をして以来、僕は「他人と違う」ということを気にしなくなった。どんな人に会っても偏見は持たなかったし、皆の輪から外れても淋しくはなかった。そんな思い出を「懐かしい」と純粋に思う。セルティは、僕にとって或る時は母親のようで、姉のようで、友達だった。そして、何時しか僕はセルティに恋をした。そして、今は愛している。僕はずっとセルティと生きてきた。僕の思い出の中には何時もセルティがいて、彼女が嬉しいと僕も仕合わせで、其れが僕の人生だ。
確かに、所謂普通の恋人たちが当たり前のように出来ることが出来なくて、羨むこともある。そして「僕はセルティを愛している」と声高に宣言すれば、世界は揃って眉根を顰めるだろう。だけど僕には関係ない。世界中の人々が如何云おうが、僕はセルティを愛していて、彼女が必要なのだということは変わらない。セルティが人間じゃなくても関係ないし、セルティが嘆く必要など、何もない。カーテンを開け、僕は外を眺める。
そう云えば、他人にセルティの行方を聞いてばかりで、僕はセルティ自身に連絡を入れていなかった。喧嘩した時、セルティは何時も僕からの連絡を受け付けてくれないから、僕は何時からかセルティに連絡を入れるのを止めていた。でも其れはきっと建前、僕はセルティと向き合うことを恐れているのだ。
『もう新羅など必要ない』
そう云われてしまうのではないかと、酷く恐れているのだ。そうやって逃げているから、分かりあえない、伝わらない。そしてセルティは不安になる、意地悪な言葉に抉られる。僕は、セルティがいてくれれば充分仕合わせだ。本当にそう思っている。今こそ、全身全霊を以て伝えるべきなのだ、僕はそう思いセルティに連絡を入れた。



果たして、セルティは来てくれるのだろうか……?
僕は独り言を云いながら、風に吹かれている。青く晴れた午後は気持ちがいい。僕は鉄柵に寄り掛かると、小さく欠伸をした。
「大事なことを君に伝えたいので、十四時に僕らのマンションの駐車場に来て下さい」
セルティにそうメッセージを残した。
彼女が来たのがすぐ分かるように、僕は今、階段の踊り場にいる。
期待半分、諦め半分。僕はセルティが来てくれるのを今か今かと待った。時間は十四時を少し、過ぎている。
「……こりゃぁ本当に愛想尽かされちゃったかな」
僕は溜息をつき、仕方ないと腹を括った。セルティが僕を必要としてくれないのなら、僕にレゾンデェトルは微塵も残されていない。
「哀れ哉、僕の人生の味気なさよ……」