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初恋をつらぬくということ

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陽ざしが厳しい。
太陽は天の頂を過ぎて、ますます照り輝いている。
蝉が鳴いている。
つい最近から、鳴くようになった。
田圃の稲の葉は苗を植えたばかりのころと比べるとずいぶんと伸び、夏の陽の光を浴びて黄緑色にきらめいて見える。
やがて、銀時は神社の境内に足を踏み入れた。
ひとりになりたい。
そう思って、ここに来た。
家に、塾にいれば、だれかいる。いなくても、そのうち、やってくる。それも、大勢だ。
銀時は割拝殿に近づく。
だれもいないだろうと思っていた。
しかし。
「久坂」
割拝殿から、男の声が聞こえてきた。
銀時はハッとする。
気配を殺し、割拝殿の壁へと身を寄せた。
とっさにしたことだった。
踵を返して、逆に割拝殿から離れたほうが良かったかもしれない。
だが、そうしなかったのは、気になったからだ。
男が呼んだ相手は、松陽の塾の塾生の久坂義人だろう。
それだけならば別にかまわないのだが、男が久坂を呼ぶ声には緊迫したものがあった。
「さっきも言ったけど」
久坂の声も聞こえてきた。
美声だ。
詩を吟じれば、たいてい、まわりにいる者は聞き惚れる。
そして、声だけでなく、その容姿も優れている。
「僕は君の気持ちには応えられない」
久坂はいつもは穏やかに話すのだが、今の口調は厳しい。
そうなるような状況にあるということか。
「久坂……!」
思い詰めたような男の声。
さらに、物音が聞こえてきた。
男が久坂に迫り、久坂はそれから逃げているような、音だ。
助けに行ったほうがいいかもしれない。久坂は頭がずば抜けて良いが、武芸は得意ではない。
銀時は動こうとした。
そのとき。
「無理矢理に嫌なことをされたら、僕は黙ってはいないよ」
久坂の声が聞こえた。
「君のしたことを話す。知っていると思うけど、僕の人脈は広い」
たしかに、久坂の人脈は広範囲にわたる。
藩の上層部にもつながっている。
「一時の感情で、これから先を台無しにするつもり?」
その久坂の台詞は、ただの問いかけではない。
もしも自分に良からぬことをすれば、自分の人脈の中にいる権力者に話して、男の将来をつぶさせる。
そう脅しているのだ。
作品名:初恋をつらぬくということ 作家名:hujio