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初恋をつらぬくということ

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先のことはわからない。
だが、駆け落ちはそんなことでは済まされない。
脱藩は一族郎党まで処罰されかねない罪だ。
罪人となって逃げた先で、どのように暮らしていくのだろうか。
「僕は、君にも、桂にも、幸せになってほしいよ」
久坂はふっと笑った。
陶器のような白い肌に温もりがもどる。
「良い方法があるといいね」
そう告げたあと、なにか思いついたような表情になる。
「案外、天人が来襲して世が乱れたことが、良い方向に左右するかもしれない」
「世が乱れていいことなんざねーだろ」
「旧弊を打破するきっかけになるかもしれないよ、銀時」
久坂は声を落とした。
「この国は長いあいだ堅い檻のようなものを使って治められてきた。でも、天人が来襲する以前から、その檻にはガタがきていたんだよ」
堅い檻のようなもの、おそらくそれは身分制度のことだろう。
幕府に対する批判とも取れる。
しかし、久坂の頬には笑みが浮かんでいる。
その眼は前方からやってくる塾生たちに向けられている。
笑顔は彼らに見せるためのものだろう。
仮面、だ。
塾生たちが近づいてくる。
彼らは塾のあるほうへと道を折れることなく、こちらに向かって進んでくる。
しばらくして、そばまで来ると、皆、挨拶し、さらに、その中のひとりが話しかけてきた。
久坂に告白して拒絶された者の名前を口にする。
そして。
「さっき、道ですれ違いました。怒っている様子だったので、声をかけられませんでした」
不思議そうに首をかしげた。
「ああ」
久坂が返事をする。
「悩み事があるようで、さっき、相談を受けたんだが、解決できなかった」
嘘、いや、あながち嘘ではないようなことを言う。
「どんな相談だったんですか?」
「それは言えない」
久坂は華やかな笑顔を向けて、やんわりと断った。
「深刻な悩みだから、もう塾には来ないと思う」
「そうですか」
話しかけてきた塾生はそれ以上は追求しなかった。
そのあと、皆、塾のあるほうへと歩きだした。

桂の正面には四十過ぎの武士が座っている。
ここは桂の家であるので、来客だ。
親戚である。
ただし、桂家の血筋の者であり、養子の桂とは血のつながりはない。
桂は選択を迫られていた。
結婚して身を固めるか、養子を迎えるか。
作品名:初恋をつらぬくということ 作家名:hujio