夢を見るヒト
この部屋は他人が居ない限りはPCは機械的な演算音を立て、時代ものの時計が時を刻む音しか響かない。主が寝ているなら尚更だ。そして、その主に断らずに部屋に押し入った高松は異物である。なぜか部屋に無断で入ると息苦しさを感じるのは、元々の役割の延長線だろうか。
耐えられなくなったところで息を吐き出して行動を再開した。
勝手知ったる他人の研究室。遠慮無く物置になっている備え付けのチェストからブランケットを取り出しばさり、と遠慮無しに掛けてやる。寝返りを打って(この狭い長椅子でよくもまぁ器用な物だ、と高松は呆れ半分に関心をした)高松の方へと顔を戻す。眺める事幾秒。ジャンの唇が声もなく叫びを上げる。
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声帯を震わせないその声は聞こえない筈なのに、確かに高松の頭に届いた。悔しげに表情を歪めて、掛けたばかりのブランケットを握りしめる。ギリ、と音がなるほど歯を噛み締める。一体何の悔し涙だろうか。目尻から、一筋の涙が流れ、頬骨にそって落ちる。
小さく舌打ちをして、憎々しげにその涙を拭う。ジャンの慟哭すら飲み込むように、その一滴を舐めた。