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彼の声がでなくなる話

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 今こそヒーローの出番だと、アメリカは勢いよく立ちあがって叫ぶ。
「みんな、落ち着くんだぞ!」
 アメリカの声が会場に響き、ざわざわとしていた会場がいっきにシンと静まり返った。これは気持ちがいいなと内心おおいに満足して、アメリカは真っ暗な室内を見回しながら聞き取りやすい、はきはきとした声で言う。
「しばらくしたら非常灯に切り替わるから、慌てて立ち上がったりしないでくれ」
 そうは言ったものの、しばらく待っても非常灯に切り替わる気配がない。なにか、ものすごいトラブルが起こっているのだろうか。
 そんな考えが会場にいる全員の頭にも廻ったのだろう。静かだった室内が、またすこしずつざわざわとしはじめる。けれどヘタに動き回ると混乱するだろうし、なにかあれば連絡が入るはずだ。たぶん、動かないほうがいい。
 そんなアメリカの判断はただしかったようで、しばらくすると会場の扉が開く音がした。視線を向けると、懐中電灯を持っているらしいスタッフがそこに立っている。
「よかった、みなさんお怪我はありませんか」
「ないよ! それよりこれはどうなってるんだい」
「原因は今調査中なのですが、電気系統の配線がすべてショートしてしまったようで非常灯に切り替えることができません。ですのでみなさん、足元に注意して外に避難していただけませんか」
 先導しますのでついてきてください、というスタッフの言葉にうなずいて、アメリカは会場にいる全員に向かって言う。
「と、いうことらしいんだ。みんな怪我しないように外に移動してもらえるかな! くれぐれも迷子にならないように、近くの人と声をかけあってくれよ」
 ざわざわと聞こえてくるたくさんの人の声と、椅子を引く音。書類をかばんの中に詰める音があちこちから聞こえ出す。こんな状態では会議にもならないので、みんなこれ幸いとばかりに身支度を整えているようだった。
「じゃあみんな、準備できたかい?」
 声をかけると、あちこちから返答の声があがる。待ってくれという声はないので、たぶん大丈夫だろうとアメリカは「こっちだぞ」と声をかけながら歩き出した。
 先頭を歩くのは懐中電灯を持ったスタッフで、その後ろにアメリカ。以下は暗くて見えないが、ぞろぞろと後ろをついてくる足音が聞こえる。
 真っ暗な廊下を進み、エレベーターは使えないからと非常階段へと回された。明かりがないので足元がおぼつかず、途中で何度も誰かもわからない悲鳴のような声が聞こえた。
 かなりの時間をかけて、非常階段を降りた。やっと地上一階につき、アメリカはほっと息をつく。後ろからもなんだか安堵したような空気が漂ってきた。みんな、真っ暗な中を進んできて緊張していたのだろう。
 ほどなくして出口につき、みんなそろってぞろぞろと外にでて、アメリカは後ろを振りかえった。
 建物の中は真っ暗で、街灯が生きている外のほうが断然明るく感じる。そびえたつ闇を内包した建物は、ホラー映画にでてきそうだ。この中をゾンビが徘徊していたらと考え、アメリカは慌てて首を振った。怖い考えをするものではない。
 そうこうしているあいだに、最後の一人が開きっぱなしになっている自動ドアからでてきた。そしてみんなそれぞれに声を掛け合い、お互いの無事を確認しあっている。
 そのときだった。急にフランスが、イギリスは、と声をあげたのだ。
 その声音につられてそちらを見れば、なぜかフランスはイタリアと手をつないでそこに立っていた。けれど表情はあからさまに失敗したとゆがんでいる。
「きみ、イギリスの世話を任されてるんじゃなかったのかい? こんなときにまでイタリアにセクハラなんて、」
「ち、違う違う。ほんとこれはそんなんじゃなくて、俺はイギリスの手を引いていると思ってたんだよっ」
「俺も、ドイツと手をつないでると思ってたけど、フランス兄ちゃんだったんだね」 イタリアが不思議そうに呟いて、いつもの変わった声をあげた。フランスも、ばつが悪そうにがしがしと頭をかいている。
 頼まれていると言っていたくせに、なんでそんな初歩的なミスをするのかアメリカにはわからなかった。だからつい、責めるような口調で言ってしまう。
「だいたい、イギリスとイタリアの手なんて間違えようがないだろう」
「あんな真っ暗だったんだぞ。わかるかっての!」
 俺はわかるぞと言いかけて、慌てて口を閉じた。フランスは自分の失敗に眉をひそめて、くるりと建物の方へと視線を向ける。
「ちょっと、探してくるわ。懐中電灯貸してもらえるか」
「……しかし、」
「ホストとして、ゲストに行かせるわけにはいかないよ。俺が行くからきみたちは先にホテルに帰っていてくれ」
 ためらっていたスタッフから懐中電灯をひったくり、フランスにそう告げる。彼はあからさまに眉をひそめ、いいやと首を振った。
「俺が行く。俺が任されてたのに、あいつ置いてきちまったんだ、俺がちゃんと、」
「それできみに怪我でもされたら俺が迷惑なんだぞ! ちゃんとイギリスは見つけるから、ほんとにきみたちはホテルに帰っていてくれ」
 さらに強く言えば、フランスはぐっと言葉を飲み込んだ。周りにいる国々もどうすればいいのか不安そうな表情でアメリカとフランスの様子をうかがっている。
 けれどこうしているわけにもいかないと思ったのだろう。ドイツがひとつ咳をして注意をひきつけ、堅い声でぴしゃりと言った。
「アメリカの言うことも一理ある。だから我々はホテルにもどろう。ここにいるだけ邪魔になってしまうだろうからな」
「でもドイツ、イギリスが、」
「それはアメリカに任せよう。なによりもここはアメリカの国なのだ。こいつが一番建物にも詳しい」
 ドイツの言葉に、反論する者はとりあえずいなかった。みなそうだなとうなずき、とにかくホテルにもどろうという雰囲気になる。
 けれどやはりフランスは動く気配を見せなかった。どうしたものかと思っていると、すこし離れた場所にいた日本が近づいてきて、フランスの隣に並んで立ち止まる。
「では、私とフランスさんはここでおふたりが無事にでてくるのを待っている、というのはどうでしょう」
「日本、でも風邪をひいちゃうぞ」
「大丈夫ですよ。ねえ、フランスさん」
「ああ」
 とにかく、責任感があるからかフランスはホテルに帰る気はないらしい。仕方がないと肩をすくめ、アメリカは懐中電灯でとんとんと自分の首のつけねあたりを叩いた。
「わかったよ。すぐにあの迷子を見つけてくるから、ここで待っててくれるかい」
 しっかりとうなずいたふたりに背を向け、アメリカは建物の中にもどる。
 外から見ても不気味だったが、中に入っても不気味だった。窓から入ってくる明かりが届く場所はまだ薄ぼんやりと明るいが、暗闇にそこだけが浮かんでみえるのでなんともホラーっぽい。ふと見るとそこにゾンビが立っていそうだ。
 いやいや、あれは映画だと心の中で己に言い聞かせ、アメリカはとりあえずイギリスの名前を呼んでみる。返答も、人の気配もない。
 そもそもどこではぐれたのだろう。イギリスも子どもではないのだし、はぐれたからといってあちこち動き回っていることもないはずだ。ならば会議室にもどろうと、アメリカは非常階段へと向かう。
作品名:彼の声がでなくなる話 作家名:ことは