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彩りディナー

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「あと、他にやることあるか?」
テーブルをセッティングし始めた弟に倣ってスープ皿などを取りだしたエドワードが訪ねると、アルフォンスは首を横に振った。
「ううん、あとはバゲットを切ったら終わり」
「そっか」
「ありがとう兄さん、おかげで支度が早くできたよ。…どうする?ご飯までに、お風呂入ってくる?」
「…いや、今朝メシ食うときに、朝から演習指導があるって話、しただろ?」
「ん?ああ、そうだよね」
鍛えてやってる最中に腹が減るのは嫌だから、とか言って、エドワードはいつもより多めに朝食を摂ってから出かけたのだ。
日中は天気も良かったし気温も高かったから、おそらく演習は屋外で行われたのだろう。
「じゃあ、司令部でシャワー浴びてきたんだ?」
「ああ、だけど簡単に汗を流しただけなんだ。寝る前にもっかい入る」
髪洗いてぇ、と呟いたエドワードに、アルフォンスがバゲットを手にしつつそっか、と頷く。
「司令部のシャワーブースって狭いし、演習の後だと他の人も使うから、ゆっくり浴びたくても難しいよね。兄さんは髪長いから、洗うのも時間かかるし」
「そうなんだよなぁ。かといって、佐官以上用のシャワールームまで行くのヤだったし」
また自分の席に戻って背もたれの上に頬杖をついたエドワードは、ちょっとだけむすっとしてため息を吐く。
司令部には佐官以上の者専用のシャワールームもあるのだが、そこが施設内の奥という、執務室から離れている場所にある所為もあり、移動が少々めんどくさい。
そのためエドワードは大抵、演習場からも執務室からも近い場所にある下級兵士と同じシャワールームを使っている。
「これでも一応は時間をずらして、人が減った頃を狙ってるんだけどさ。オレが行くと、中にいたヤツらがすっげぇ顔するんだぜ」
不満げに言うエドワードに、ナイフを軽く炙っていたアルフォンスの手が止まる。
「……へえ」
「別に規則に定められてる訳じゃないし、オレが尉官以下の兵士と同じシャワールーム使っても良いじゃねぇかって思うんだけど。そんなに珍しいことか?」
「…ううん、そんなことないと思うよ。ボクも司令部に呼び出された時には、大抵あそこを使ってるし」
「だろ?」
彼ら同様に、下級兵士と同じシャワールームを使う佐官は何人もいるのだから、特別エドワードがおかしなことをしている、という訳でもない。
先にも述べたとおり、佐官以上専用のシャワールームは設置場所が悪いために使用頻度が少ないのだ。
「それにアイツら、ブースから出てきたオレのこと、じろじろ見やがるんだ。あれ、どーにかなんねぇかなぁ」
「え?」
ぼやくエドワードに、アルフォンスは思わずナイフを持ったまま兄の方を振り返った。
「何それ、そんな身の程知らずがいるんだ?」
「身の程知らずって…単に、右肩と左足の跡が珍しいだけかもしんねぇけど」
アルフォンスが自らの体を取り戻した際、エドワードも自分の手足を取り戻している。
以前は機械鎧を繋いでいたその部分は、華奢ではないが細くしなやかな彼の体に、現在も大きな傷跡として残っている。
しかし傷跡が物珍しいというだけで、彼らはエドワードを見ているわけではない。
本人にはまるで自覚がないのだが、エドワードは同性すらも惹きつける光というか、オーラのようなものを纏っているのだ。
「…ねえ兄さん、やっぱり面倒でも佐官用のシャワー使った方がいいと思うよ。ていうか今度から絶対にそっち使って」
「へ?なんだよいきなり」
急に掌を返すような弟の発言に、エドワードはきょとんとする。
「いつか何かが起こる前に、対策は講じておくべきだと思うんだ」
「……ナイフ持ったままこっち向くのやめろよ怖ぇから。つか何が起きるんだよ」
「さあね。考えたくもないけど」
小さく肩をすくめたアルフォンスが、まな板の上にかたりとナイフを置く。
「それに、兄さんの肌がボク以外のヤツの視線に晒されるの、耐えられない」
「な…っ」
「兄さんの全部を見ても良いのは、ボクだけでしょう?」
さらりと言ってのけると、エドワードはどこか呆れたようにぽかんと口を開けた。
「……オマエ、何だかんだ言って、結構許容量狭いよな」
「独占欲が強いって言ってよ、自覚はしてるもん。だけど、イヤなものはイヤなんだ」
思わず拗ねたような表情で、アルフォンスは言う。
「兄さんお願い、今度からは佐官用のシャワールームを使って。…ね?」
甘えるような声でとどめを刺されて、ややあってエドワードはふにゃりと表情を崩す。
他の誰でもない、アルフォンスに言われれば、自分に出来ることなら何だって受け入れてやりたいと思ってしまうのだ。
なにしろ彼は、自分にとって可愛い可愛い弟であり、誰よりも大事なひとでもあるのだから。
「…わかった。次からはちゃんと、奥の佐官用のシャワールーム、使うようにする」
「ホント?約束だよ?」
「おう」
こっくり頷くと、アルフォンスは嬉しそうに笑って手元に視線を戻し、バゲットを切った。




作品名:彩りディナー 作家名:新澤やひろ