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空の境界~未来への奇跡~1

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今は、そういってその場から退散したほう良いと判断し、急ぎ駅の中に入っていった。
後ろから、式が不覚を取った事を悔しがって、叫んでいるのが解るが自分にとって八年間以上に我慢してきたことだ。
それにもう「式」の存在もただ事ではない事も、実感した。
本当に、残ったこの眼で式を見続けようと、改めて想った。

〜憂鬱な棟子さん〜

次の日いつものように、出勤して来たのはいいのだが、昨日のことが時期尚早だったと、考えてしまった。

「どんな顔して、会えばいいのだろう?」

そう思いながら、事務所で溜まっている仕事の発注表や、その他の書類と格闘していた。実は、少し前に

「この所少しおかしい」

と、鮮花が言っていた社長に眼をやった。
僕は、いつもと変わらず、雑で金に無頓着で、平気で僕の給料分の収入まで使ってしまう。困った上司である。しかし、仕事は一流で、設計士や、人形制作者と、多種多様な才能を持つ。一番変わっているのは、魔術師である事だろう。そのお蔭で、式を助けることが出来たのだから、喜ばしい限りではある。しかし、式の実家のいわれや奇怪な事件、妹の鮮花に魔法を教える等、一般人にとって「どうだろう」と思う側面はあった。自分もそんな彼女に引き込まれた人間なのだから始末が悪い。
しかし、そんな社長も上の空で目の前の明らかに、指輪入れを眺めていた。普通一般業務をしているか、魔法の何かを準備しているか、どちらなのだがタバコもふかさず、指輪入れを眺めている所長というのも珍しい限りだ。確かにここ数日おかしかった事を思い出した。確か大輔兄さんと、デートの後からだと思い出した。

「大輔兄さんと、何かあったんですか。」

ガタと珍しく、棟子さんが冷静じゃない対応を取った。

「幹也、誰から聞いたか知らんが、余計なことに首を突っ込むと、呪いのルーンを貴様に、刻み付けるぞ。」

図星だったようだ。

「鮮花が、心配していましたよ。何かあったんじゃないかって?」

鮮花をだしに、聞いてみることにした。

「たいした事じゃない。ただ、大輔にプロポーズされて、これを押し付けられただけだ。」

ガタンと今度は、僕が驚いた。確かに大輔兄さんにしてみれば、棟子さんは数少ない付き合いのある女性ではあるが、まさかそんな仲になっていたとは、僕でも解らなかった。

「中には、ダイヤモンドの指輪が入っている。古来金剛石と呼ばれ、破邪の効果が有るだけに、結界内で下手な干渉が起きる可能性が有るので、どうした物か考えていた所だ。」

はっきり言って、その言葉の何割かは取ってつけたような「嘘だ。」と直感した。それだけなら、そんなに驚きはしないだろう。
棟子さんは、僕が嘘を看破している事を感じ正直に話を続けた。棟子さん曰く、僕には「探し物を見つける目」という才能があるらしい。そんな僕に嘘は、利かないらしい。

「1週間くらい前だ。デートに誘われた事は、覚えているな。」

確かにその日は、一日中棟子さんがデートでいなかった。

「そのとき、大輔の追っている事件に魔術師が絡んでいたのだ。」

それは、初耳だった。確かに出世コースの警視庁捜査一課にあって、変わり者の現場主義者だから、休暇中の捜査は日常茶飯事な人だ。
しかも、指定された待合場所は、そこは加害者の立て篭もるマンションの近くの喫茶店だった。私服刑事数名が、遠巻きにこちらを見ていた。

「鮮花の手品の師匠と聞いています。今回是非、被害を出さないため協力してください。」

と言われた。何故解ったのか知らんが、気がついたら大輔にもばれてしまっていた。
協会組織にとって一般人に魔法がばれると、命の危険は勿論、下手したら死んだ後も、働かされる危険があるのだ。

「とてつもなく危険で一般人が踏み込む場所ではない。」

棟子さんも、協会に知られる危険性を説いて、協会に一般人からの密告の方法や、近くの協会支部への連絡を薦めた。
すると大輔は、不適に笑った。

「「たまたま、捕り物の最中に魔術師が通りかかった。」位の奇跡が起こった。ということにしておいたら問題ではないでしょう。」

まったく呆れた。そんなもので協会の眼を欺ける物か。運良く今回はうまくいっても協会は、魔術の後を消しに来るぞ。

「しかし、鮮花が一人前の魔術師に成れば、「身内を守った。」という口実が使えるのに。」
「そりゃ無理だ。魔法学校にも通っていない鮮花では、返り討ちに合うだろうな。」

加害者の魔術師の使う魔法は、ソロモン系に属するもので、その方式も正統な師匠から伝授されたものである事は、周りに張り巡らされた結界が示していた。事実、魔法学校で学ばなければ一人前と呼ばれる事はないのだ。
すると、大輔が棟子の手を取り指輪を左手の薬指に嵌めた。

「「婚約者を守る。」という口実なら、十分でしょ。」

いきなりの事だったので、頭が真っ白になった。何か言おうとした所で、人差し指で唇を触られて、黙らされた。

「返事は、今のところ保留でいいです。とりあえず、目の前の仕事を終わらせましょう。」

そう言われて、魔術師を捕縛する為の突入が始まった。大輔は前線指揮で突入組を率いて先陣を切っていった。棟子さんがやった事と言えば、遠隔で詠唱妨害と結界の発動阻止くらいで、あまり大した事もやらずに終わった。それからは、大輔から、

「被疑者搬送は、部下がやってくれますので一緒に買い物でもどうです。」

と誘われた。

「私とそういう関係に成りたければ、死ぬ以上の覚悟が必要だぞ。」

と脅したのだが、

「勿論、好きになった女性の事を知りたいと思っていますから、その覚悟は出来ているつもりです。」

とあっけにとられてしまった。ブティックで無理やり女性らしい服装にされ、結局その日一日、返事の出来ぬまま、映画やらショッピングやらで、費やしてしまった。
無論「偶然」で片付けられたのだが、犯人の方は拘留中にイギリスからの面会人が来た途端、獄中死をしてしまったそうだ。

「そんな、事があったんですか。」
「笑い事ではないぞ。あそこまで貴様に似ているとは、思いもしなかった。」

式が大好きで、死をも厭わない自分と大輔さんの行動は、血筋なのだろうと思った。
正直ここまで、へこんだ棟子さんを見るのも新鮮だ。

「棟子さんなら、スタイルもいいから、引く手数多だったでしょう。」

すると、荒耶宗蓮(あらやそうれん)達三人の写った写真立てに棟子さんは眼をやった。

「学生の頃は引っ切り無しだった。」

初めて聞いた。

「知っての通り、魔術師の魔術は一子相伝だ。それだけに、私のような「魔力」は有っても魔術師の後継者でないものは、自分の家の魔術を守るため魔力の有る者との間に子供を作らないといけない。私は後継者では無かったから、その手の輩からのオファーは、呆れるほどあった。」

棟子は、そいつらにどう対処したかなんて言えない。
しかし、かつて持っていた目標に対して、未だその為に支払った対価では足りないのだ。
そんな中、改めて出された分岐点に迷わないほうがおかしいのだ。「蒼崎」の性が重く伸し掛かるのを感じた。