まほうのうつわ
アーサーは一日で何度か泣くことがあったけど、本当に辛い時はフェリシアーノに助けてもらった。
フェリシアーノが差し出す両手に顔をうずめて、アーサーの涙はその中心にぽとりと落ちる。たったそれだけでフェリシアーノの両手は溢れそうになってしまう。アーサーが涙をこぼした後に、フェリシアーノはその涙をごくごくと飲み干した。
悲しい涙はちょっぴり塩辛くて、つらい涙はちょっぴり苦いのだという。
ごくごくたまにアーサーは嬉しくて泣くので、それをフェリシアーノが飲むと、とっても幸せそうな顔になる。
「そんなにおいしいのか?」
そうアーサーが訊くと、フェリシアーノはにっこりと笑って何度も頷いた。
「すごく甘くておいしいよ」
そういうフェリシアーノがうっとりと幸せそうなので、アーサーも同じように嬉しくなって微笑むのだ。
けれど、最初のうちは我慢できていたアーサーも、だんだんと泣くことが多くなってきてしまった。辛い涙や悲しい涙がたくさんたくさん溢れてきて、フェリシアーノが掬う涙が見つからない。
アーサーはそれが悲しくて、せつなくて、そう思うとやっぱり涙はあふれてきてしまうのだ。毎日フェリシアーノを枕もとに置いて眠っていたけれど、アーサーはそのうち、フェリシアーノを小さな食器棚にしまうようになってしまった。
「アーサー、俺さみしいよ。どうしてそんなことをするの?」
「ごめんな。涙が多すぎてフェリシアーノに助けてもらう涙がわからないんだ」
泣きながら言うアーサーを、食器棚のなかからフェリシアーノが悲しそうに見やる。緑の目からこぼれる涙は、大粒で、湿っていて、フェリシアーノが受け止めるにはきっととても辛いものだろう。
アーサーが泣きながらベッドに入って丸くなってしまったので、フェリシアーノはさみしい食器棚でひとり口をつむぐしかなくなってしまった。それからというもの、アーサーはフェリシアーノに話しかけなくなってしまった。フェリシアーノも、他の食器と同じように、お行儀よく並んだままだ。
ひんやりとしたベッドルームに響くアーサーの嗚咽は、カーテンすらも無視をする。
そんな日がたくさん続いたある日、ぼとぼとと涙を流しながらベッドに入ろうとするアーサーに、フェリシアーノが「ねぇ」と話しかけた。
「なに、フェリシアーノ」
「アーサー、俺を温めて」