遠い音楽
2.大好き
「おれの方が大好きだもん! イギリスのばかっ!」
「アメリカ……わかった、わかったって」
「わかってないよ、イギリスはぜったい、わかってない!」
叫んだ声が自分の耳の中ではねかえって、じんじんする。
イギリスのばか。ばか、ばか。
イギリスに、「イギリス大好き」って伝えたら、
イギリスは「俺の方が好きだよ」って笑って、
なんだか少しだけ切なそうな顔で、うつむいた。
「……俺の方が好きなんだ、アメリカ」って、
どうして? どうして、そんな風に笑うの、イギリス。
まるで、「好き」って言葉がいけないことのようにイギリスはうつむく。
おれが大好きだって伝えた気持ちを、イギリスは半分も受け取ってくれていないだろう。
目をそらして、苦しそうな声で、おれも大好きだよって、目をふせて笑う。
イギリス。どうして、こっちを見てくれないの。
「……おれ、イギリスが好きなんだ。だいすき、なんだもん」
「……アメリカ」
胸の奥がぎゅっとする。
好き、好き、好き。大好き、大好き。イギリス、大好き。
ばくはつしそうな気持ちがふくらんで、今にもはじけてしまいそうだ。
「………ありがとうな、アメリカ」
おれを見て笑うキミの顔は、どうしていつもそうやって切なそうなの、イギリス。
まるで、いつかおれの言葉が消えてしまうと信じてうたがわないような目で、
どうして、いつかおれとサヨナラをする覚悟をしているような目で。
おれがキミを好きじゃなくなる日なんて、そんなことをかんがえて、キミはうつむくんだろう。
大好き。大好き、イギリス、大好き。
この声を、キミの胸の奥の奥に届けるのに、あと何百年かかるの。
ただずっとそばにいたいって思うだけのことが、
こんなにキミを辛くさせるなんて、おれにはまだよくわからないよ。