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転がす句点

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青い春から一部抜粋してみる。

「君は空色って言われて何色を想像する?」
「君は、ってやめて下さい。俺には黒沼青葉という名前があるんです」
不機嫌な顔とセットで、後輩は質問を無視した。流れ出すバックミュージックはボールペンの奏でる軽快な音。
「知ってる?脳みそには、いらないことを入れるゴミ箱があるんだってさ」
「すみませんすみません」
つむじが見える謝罪と共に送るのは、馬鹿丁寧さが適切である。とにかく何事にも精一杯取り組べきだが、許す許されるかは別である。





続、青い春から。

恋に恋する女子の望みはどのようなものか、俺には理解し得ない。
恋はコミュニケーション能力を持たない。世間からそう呼称されるものに喋る術は存在しない。初が頭に付いたり、時として勘違いとして処理されるそいつはフィードバックを返さない。どれだけの想いを捧げてもそんなものは無駄に直結する。



でもどうせなら、夢を見ていると錯覚すら起こす様な持続性のあるものに侵食されたい。
単純で明快な意思を持ったそれは未だ幼い顔をして、しかして惹かれるには充分な要素を宿している。理解のし易さは、方向転換の難易度をそのまま示しているのだけれども。根は無視し出来ない位に頑強だ。なんたって積み重ねた時間も厚みを加えているので。
いっそ在りのままの、純粋な性質に押し流されてみてはとさえ考える。良くも悪くも混じり気の無さには敵わない。形を遺すよりも蕩けるのが理想の結果の一つでもある。口を利かない遺骸も、黙って騒いでいるように感じるから。負け犬とは言わせない。何故ならそれは、多大に礼を欠いてしまっているのだからして。まずは誠意ある敬意を、それと高貴なひとに捧げる種の畏怖を払うことを、此処に要求しておく。
夢から醒めた時には、融け切った身で崩壊していく感覚を懐かしむ。愛でる。擁護し執着する。最期に看取ってくれとの贅沢は我慢してみせようか。狂おしい程の禁断症状に苦しみながら染みになる、なんてとっても素敵な末路でしょう。

そう思いませんか、先輩。と質問でない声色で唇から送り出す。
何の話?と温度のない視線を被せつつ訪ねられた。薬にもならない話です、との答えを提出した。評価はただ一人のご機嫌により、誤解を挟む隙間もない明確さでもって提示される。只今の採点を待っております、という札を顔に大人しく提げた。


価値とは個人が決定するのだが、定義と信条の矛盾と対立が今まさに自己の内側で繰り広げられていた。なんだっていいではないか、当事者が幸せであるのならばという声高な主張が脳を蹂躙する。

それならば願うは報われる未来を。微量ながらも笑みを浮かべられる、その結末を。





誰しも青い春があるものだ。

重なる青に何を想うべきか。間近に感じる体温、呼吸、熱。そんなもの、頼んではいないのだけれど。
見た目に反して抗えない力を込めた腕に掴まれ引かれて、腕の持ち主に抱き込まれる。予想もしていない突然の温度と、耳元に囁かれる吐息は生きている証拠である。
それと、幽かに潤んだ二つの瞳からダイレクトに伝わる熱視線が鬱陶しいのかは今の所、行き成りの事態に反応出来なくて判断が出せない。
保護色の上に重ねられた青が、この一呼吸の間にも共に身じろぎするから、どうしようもなくなった。
突き放そうと正論を働かせようとする仕組みの螺子の一部が、コロリと転がる音を聴いた気がする。だからか代わりに作動したのは、正論を押しのけたのは。一瞬を支配したのは、僕の知らない何か。
しかしきっと、青色の何かなのだ。
作品名:転がす句点 作家名:じゃく