隠せぬ鏡面
その日から、キョウジはレインとともに外出することが多くなった。何のことはなく、デートである。もっともキョウジは父と共同で研究に明け暮れる生活のため、ともに過ごす時間も限られてはくるが。
食事に出掛ける。ショッピングをする。映画を見る。ドライブをする。おしゃべりをする。何の変哲もないデートであったが、レインはいつも楽しそうにしていた。キョウジは彼女のその姿が微笑ましくもあったが、同時に、心が痛む思いでもあった。
いつものようなデートのあと、ふと車を運転するキョウジは妙に静かな隣のレインを盗み見た。疲れているのだろうか、レインは眠っていた。ふっと小さく笑うキョウジであったが、レインが小さくこぼした言葉に愕然とすることとなる。
『ドモン……の……ばか……』
その言葉は、キョウジの心を抉った。
やはり、そうなのだ。レインが心から愛しているのは自分ではない。弟のドモンのほうだ。成長したドモンはきっと自分のような容姿をしているだろう、面影を残しているだろう。そんな考えがレインの想いをキョウジに向けさせた。もちろん、レイン自身は無意識のうちに。
完全に「ドモンの代わり」と思っていたのではないだろうが、時折見せるレインの表情から推測はできた。
「ドモンの代わり……か」
呻くような声で、キョウジは自らの比喩を低くつぶやいた。
ドモンはレインとは幼馴染みで、よく遊んでいた日々が昨日のように思い出される。当時、やや内向的だったキョウジは彼らの面倒を見ることでずいぶんと社交的になった。ちいさな二人から「おにいちゃん」と呼ばれ、慕われることがたまらなく嬉しかった。
そんな彼らを、どうして天秤にかけることができようか。
レインがドモンを愛するなら、そしてドモンも同じ気持ちであれば、キョウジは身を引く。
だが、レインを奪いこの手に収め、自分のものにしたいという独占欲がキョウジの頭から離れない。兄弟で女の取り合いとは、なんという三文芝居であろうか。
それでも、長い月日の中で芽生えたレインへの愛を、キョウジは抑えることはできはしない。
「頭がおかしくなりそうだ……」
キョウジは、そう自嘲した。
作品名:隠せぬ鏡面 作家名: