愛に生きて
乾いた瓦屋根の上は、春の江東の絶景が広がっていた。
「いいとこ知ってるじゃねえか。権。」
へへへ。と、幼い弟は照れたように笑った。
冬の乾いた風がその絹糸の様な赤髪をさらってかき回す。細めた目と上気した白い頬、それに体全体から発する空気で俺が傍に居ることを喜んでいる雰囲気がする。
俺は弟のこんな素直さを愛してる。
だからこそ、お袋から言われたことが気にかかってしょうがなかった。
「最近権の様子がおかしいから、策、あんた行って慰めてあげなさいな。」
ようよう以前のお袋らしくなってきたところでのいきなりの言葉。毎日以前よりもむしろ穏やかなくらいの暮らしをするようになっていた俺には寝耳に水の話だった。
よく聞けば、以前から他の兄弟に比べれば大人しすぎる位だった権だが、ここ一、二週間ほどはおとなしいを通り過ぎて鬱々としている様だと言う。
言われてみていれば、食事の際も、勉強をしているときも、上の空というか、しょんぼりとしているような感じだった。
こりゃあ、厄介かもな。と思っていた矢先に権はすぐしたの弟と派手な喧嘩をしてふいっと姿を消してしまった。
それでお袋に言われて探してみれば屋根の上に乗っかっていたというわけだ。