愛に生きて
「…兄上、今は乱世です。」
「そうだな。ちっと大変な時代だな。」
「兄上は父上の大志をお継ぎになります。そして、そのためには大勢の有能な者が必要です。…そうですよね?」
「ああ、そうだ。そのためにお前らがいるんじゃねぇか。」
「でも…。」
「でも?」
「私は、私は本当に兄上のお役に立てるのでしょうか?」
「権…?」
「沢山、沢山頑張っているのです。でもダメなんです。」
震える声に、思わず顔を覗き込むと、権は静かに泣いていた。
「どうしようもなくだめなのです。剣は翊の方が巧いし、仁は私より器用です。私は馬に乗るのは巧いですが、騎射は点でだめです。」
確か、さっき翊にからかわれたのも剣の稽古のことだったか。確かに、権はほかの弟たちに比べて武芸に劣る。
俺はむしろそれは頭との均衡を考えたうえでは必要なことではないかと思っていた。けれど、本人は全くもって違うと感じていたようだ。