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レッドとグリーンとゴールドのはなし。

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みっつ、ゴールドのはなし。




 トキワジムに入ったときに最初に発した言葉は、『誰もいない…?』だった。


「すみませーん。誰かいませんかー?」

 外見通りに中もとても広いジムだけれど、誰かがいる気配は無かった。
 足元を見ると矢印のついたパネルがあったが、明かりは点いていない。というか、窓にカーテンがかかっているせいでジムのなかは薄暗い。カーテンの隙間から漏れる光が唯一の光源である。
 留守なのだろうかとも思ったが、正面の扉が開いていたのだからそうとも言い切れない。
 いざバトル!と意気込んで入ってきたばっかりに、ゴールドは即座に引き返す気にもなれなかった。薄暗いジムのなかを、恐る恐る歩いて行く。奥のほうまで行くと、また扉があるのが見えた。

「誰か、います…?」

 半ば不法侵入のような気がしてきたので立ち去ろうかとも思ったのだが、それよりも好奇心が勝ってしまった。新たな扉は僅かに開いていて、そこからは陽光が射している。誰かいるかもしれない。思ったが最後、ゴールドは扉を開けてしまった。

「……失礼しまーす」

 なかへとそっと歩を進めると、そこはどうやら誰かの個人部屋のようだった。たくさんの本が山積みされていて、しかもそれらは本のタイトルからして難しそうなものばかりである。本と書類ばかりの部屋の中央には、辛うじてソファがあった。

「あ」

 ソファに横たわる、人。
 白衣を羽織り、眼鏡をかけたまま目を閉じているその人は、完全に夢の中のようだ。すうすうと健やかな寝息が聞こえてくるのを耳にして、ゴールドは今までの緊張を解いた。

「この人がグリーンさん、」

 かな、と言い掛けた言葉を呑みこんだ。否、呑みこんだというよりも悲鳴にすり替わった。

 今まで閉じていた目蓋が、ぱちりと開いた。寝ていたとは思えないような俊敏な動きで上体を起こした彼は、眼鏡をしているのを忘れて目を擦ろうとした。当然手は眼鏡にぶつかって、鬱陶しそうにそれを外す。
 余りにも一瞬の動作に、何を言うこともできなかった。この人が起きた瞬間から、周囲の空気が痛いものに変わったのを知覚する。なんだろう、これは、余り好ましくないものと対しているときの感覚だ。どうしてそんなことを思うのだろう、と自問して、すぐに答えが見つかった。(当たり前だ!だって、多分間違いなく、俺がこの人の安眠を妨害したんだから!)

「誰だ、お前」
「す、すすすすすすすみまさんっ!起こすつもりはっ…あう、それ以前にっ、あの、別に不法侵入するつもりじゃなかったんですけど明かりが見えてつい、そのっ」
「あー…、なんとなく分かった。もういい、気にすんな。元々眠りが浅いんだ。お前のせいじゃない」

 僅かに張り詰めていた空気が、一気に緩んだ。最初の一声は寝起きなことも相まって余りに不機嫌極まりないものだったので、ゴールドは内心泣きそうだった。もう何から弁解したら良いものか分からず思いつくままに喋っていたのだが、どうやら俺はこの人にとって悪いものである、とは思われずに済んだらしい。ほっと胸を撫で下ろして、いざ本題に移ろうとした…のだが。

 一度は起き上がったその人は、再びソファに沈み込んでしまった。

「えええー!?また寝るんですか!?!?」
「いや、無理。近くに人がいたら寝れない。だから出て行け、お前」
「ちょ、ひどっ…!」
「酷かない。俺は明け方まで論文書いてて疲れてんの。関わるともっと疲れそうな奴と関わってるほど心の余裕ねーの。頼むから寝かせろ、ほんっと無理」

 溜息と共にゴールドの目を射抜く、緑色の瞳。声音も態度も確かに倦怠感を纏っていて、ゴールドは少しだけ怯んだ。だがそれ以上に、なんというか、野生の勘みたいなものが働いてしまった。
 多分、ここでこの人と別れたら、当分は会えない気がする。

「あの、一応確認しますけど、トキワジムのジムリーダのグリーンさんですよ、ね?」
「まあなー」

 どうでもよさげに返事をするその姿は、今まで出会ってきたジムリーダーたちからは想像もつかない。若干のショックを受けながらも、ゴールドは居住まいを正してグリーンさんに向き直った。

「ジョウトから来たゴールドです!グリーンバッジを貰いに来ましたっ!」

 緑の目を正面から見据えて、言った。が、しかし。

「バッジならそこにあるから持ってけー」
「あ、はい。分かりまし……ってちがーう!!」

 ゴールドの熱意は欠片も伝わらなかった。

「なんっ…!なんでそうなるんですか!?」
「だってお前バッジ貰いに来たって言ったじゃねーか」
「そうですけどそうじゃないんです!普通、その流れでバトルに行くじゃないですかー!」
「バッジが欲しくて来たのか俺とバトルしたくて来たのか、どっち」
「両・方・で・す!」

 (信じられない、信じられない、信じられない!)
 なんだこの人。本当にジムリーダー!?なにこのどうでもいいってオーラ。すんごい面倒くさそう!
 ゴールドの内心は物凄く荒れ狂っていて、まくし立てたせいで呼吸まで荒れた。ぜえぜえ、と肩で息をしているゴールドを見て、グリーンさんはようやくソファから立ち上がった。今まで見下ろしてたから感じなかったけど、立つとやっぱり背が高い。大人の人、という感じだ。

「ふーん…。そんじゃまあ、バトルしますか」

 我侭を言う子供をなだめるように、グリーンさんに頭を撫でられた。
 物凄く馬鹿にされている感じがする。頭に血が上っていると思うけれど、止まらない。

「ちょっと待ってな、見繕ってくるから」
 
 ふわあ、と大きな欠伸をひとつして、グリーンさんは背筋を伸ばした。



 そしてバトルをした結果……、ゴールドはトキワジムリーダーに勝利した。確かに、そうだ。それは事実である。けれどその勝負は真剣勝負と言うには余りにも――……。(そのときの俺は、感情的になり過ぎていて、憎たらしいグリーンさんに勝ったことの嬉しさでいっぱいで、気づきもしなかった。冷静だったなら、絶対に気づいたはずなのに)