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グーテ・ライゼ!

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結局二人が小さな村の灯に行き会ったのはさらに一刻ほども経ってからだ。
目的の屋敷の影も形も見当たらない事から、もしや道を間違っていたのだろう
かと思いはしたが、検証するには二人とも疲れすぎていた。
宿屋のありそうな村ではないので早々に探すのを諦め、大きめの家を選んで扉
を叩いた。薬屋の看板をかけた家から出てきたのは二人に選択ミスを悟らせる
風体の男だったが、もう夜も更けている、扉が開かれただけでも有り難いとい
うものだ。
「夜分にすまない。少し道に迷ってしまって立ち往生している。一晩宿を
 貸してもらえると助かるのだが」
プロイセンはなるべく足元を見られないよう卑屈に取られない頼み方をあえて
選んだ。脅迫も恫喝もなしの交渉事は得手ではないが、まさか王に先陣を切ら
せるわけにもいかない。
「道に……?」
薬屋の主人は丸く肉付いた腕を組んで、ふぅんとプロイセンを上から下まで値
踏みする。
「あんたら貴族さまだろ?」
「そんなところだ」
「貴族でも道に迷ったりするんだな!」
はっはぁと途端に陰険に笑い出した男は貴族に対して無条件の反感を持ってい
るのは明らかで、内心プロイセンはもうこいつを殴り倒して無断で一宿してや
ろうかという気になった。大体、「迷子の貴族」は隣人の専売特許だ。
「ははは、いいぜ。何だか身分の高そうな貴族さまに宿を提供できるなんて
 光栄だ。きったねぇ犬小屋でよけりゃ、どうぞお泊りくださいってな」
「………そりゃどうも」
言ってる内容の割りに視線も口調も敵意に近い響きを溢れさせたものだ。しか
しそれも何とか無視してやり過ごす。何と言ってもプロイセンの後ろにはフリー
ドリヒがいるのだ。せっかく落ち着いた自国内で野宿なんて真似させたくない。
「フリッツ、泊めてくれるってよ」
数歩後ろに待たせていたフリードリヒに振り返りながら呼びかける。と、その
語尾におっと待ったと薬屋の声が重なる。
「泊めてやるし、あんたらにもあんたらの馬にも飯はやる」
向き直ったプロイセンの前にぴっと人差し指を立てて、ただしともったいぶっ
て薬屋は続けた。
「ちゃーんとお代は払ってもらうぜ」







ざくざくざくと目の前で一心不乱にカラス麦を頬張る。
フリードリヒの乗っていた黒鹿毛はもう腹はふくれたようで、柵一つ挟んだ隣
で仮の主にたてがみを撫でられている。プロセインの選んだ、黒々とした青毛
の一頭は予想以上の大食漢で、もう3メッツェは食い終えているのにまだ食事
を終わらせる気はないらしい。
「お前よく食うなぁ」
「飼い主に似たのかな」
「それ俺のこと言ってる?」
じろ、と見上げればさぁどうかなと微笑まれた。年々食えない奴になっていく、
とプロイセンはこのところ悔しい思いをしてばかりだ。
薬屋の「お代を払え」に対してプロイセンが何事か交渉を入れるより先に国王
たるフリードリヒが「いいだろう、当然の権利だ」とのたまったので、まずは
馬たちが半日ぶりの食事にありついていた。人間様は後回しというわけだ。

「にしても、ここはどの町なのだろうな。私の地図にはないようだが」
「郵便地図にのってないって事はないと思うけどな」
「地図が不正確という事ならば、測量局の怠慢だ。現に町はあるのだから」
「あるいは、俺達が相当ハズれた道を来てるか、だな。持ってきているのは
 予定ルートの地図だけなんだし」
今すぐベルリンに遣いをやって科学アカデミーの測量局員全員をクビにしか
ねないフリードリヒの様子にプロセインはさりげなくフォローを入れる。こい
つ俺より血の気が多いんじゃねーのと思うのはこんな時だ。
一方フリードリヒは全く予定通りに運ばない行程に、少しも気分を下降させて
いないプロイセンに疑問を持った。意外と几帳面で時間やスケジュールに厳し
い性質であるというのがフリードリヒの、プロイセンに対する印象だった。
だからそのまま口に出して訊くと、プロイセンは何を言い出すんだという風に
目を丸くして当然だろと言った。
「だって、当然だろ。元々思いつきで飛び出してきたのに、予定も計画も
 ないだろ。それにフリッツは俺といるんだ。何かあったのかなんて気を
 揉む必要もないし、何があっても俺自身で対処して守ってやれる」
だから、どんなハプニングが起きたって全然構わない。そうプロイセンはにっ
かり笑った。
これは全くの本心で、人死にだの存亡だのが関わらないのなら律儀にこまめに
日常生活を管理する性質ではないのだった。だが、フリードリヒが王位につく
と即開戦であったから、細かな計画の運びにもピリピリしていただけで。
プロイセンは王の誤解に対して、そう丁寧に説明して、でも今は戦争やってね
ぇしなともう一度にっかり笑う。
フリードリヒはブランクがあったとはいえ三十年以上を共にしているまさに運
命共同体の相手への自分の無知に複雑な心持ちになったが、結局はそうだな、
と同じ様に相好を崩した。


作品名:グーテ・ライゼ! 作家名:_楠_@APH