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愛着理論

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偶然の被害者


 それは、子供の咳き込む声で始まる。
 その日は偶然に偶然が重なった。まず、母親が出かけなければならない時に、狙い済ましたように九瑠璃が風邪をひいた。そして、臨也は丁度テスト期間で、早々に帰宅して昼食を取っていた。事態を把握して箸を噛んだ臨也は、早急に二階に逃げ込もうとしたが、結局は九瑠璃の世話を言い渡されてしまった。
 ここまでは仕方がないと臨也も諦めたのだが、母親の出掛ける間際になって、舞流が行かないとぐずり始めた。確かに、この双子は普段から離れたがらないところがあるが、二人も面倒を見るのは願い下げだ。臨也が期待を込めて母親を見つめるが、贔屓されたのは末っ子だった。

「じゃ、お願いね」
 こうして、臨也は慣れない妹達の世話を一手に引き受けることになった。パタリと閉じられる扉を絶望的な気分で見届ける。視線を下げると、双子がじっと臨也を見つめていた。
 九瑠璃は風邪とはいっても、ほぼ咳だけなので実質は丸々二人だ。食後の咳止めがよく効いているらしく、二人で童謡らしきものを熱唱している。同じ歌を歌っているはずなのに、音程はばらばらだ。基本的に食事の時しか顔を合わせない臨也には、幼児の発音は聞き取りづらい。とりあえず、着ていた黒の長袖を肘までまくり上げた。
「風邪なんだろ。歌はやめなさい」
 リビングに行進する二人に注意すると、示し合わせたようにぴったり同時に振り返る。
「じゃあ何して遊ぶ?」
「何して遊びたい?」
 話しかけられたことでスイッチが入ったのか、二人は臨也の周りにまとわりつく。思わず逃げ腰になってしまった臨也の内心など知るはずも無く、双子は無邪気な笑顔を向ける。
「なんでもいいよ。二人の好きなことで」
 左右の手を双子にひかれるがままに当たり障りのないことを言う。妹たちは既知だが新しい遊び相手に興味津々で、臨也は密かに溜め息をつきながらリビングの絨毯に着地した。

 前日深夜まで起きていた臨也は、あくびを噛み殺しながらゆらゆら揺れる小さな頭を見守っていた。とりあえずひっくり返したおもちゃ箱に気を引かれているようで、今のところは問題無く過ごせている。双子は静かにできる遊びにするようにという言いつけを守って、二人して磁力で絵が描けるボードに食い付いている。ところどころ痛んで黒ずんだ部分のあるそれに、三角のスタンプを押してこちらに差し出してくる。
「ちょうちょ!」
 臨也にはどうしてもエレベーターの閉じるマークにしか見えなかったが、ああ上手だねとおざなりに返事をする。一々感想を求めてくるのには辟易するが、放っておいて欲しいというのも無理な相談だろう。臨也はせがまれるままに上手くもない絵を披露したり、積み木で城をこさえてやったりした。
 すっかり双子に張り付かれ、既に疲労を感じていたが、癇癪を起こさないでくれているだけで有難いと思い直す。臨也は時折家中に響き渡る泣き声を思い出し、直接聞く羽目にならないことを切に願った。九瑠璃は時々咳をすることもあるが、酷く咳き込んだり、熱を出したりした様子もない。口を押さえて一つ咳をした九瑠璃の額に手を当ててみたが、臨也には子供の平熱が分からない。
「私も!」
 舞流が臨也の空いている手を引いて自分の額に当てさせる。
「お前は風邪じゃないだろ」
 そう言いつつも、そのまま二人の体温を比べて熱が無いだろうと判断した。とはいえ、クーラーで冷えた臨也の手には、二人の体温は高く感じられる。
「お前ら、暑いからちょっと離れろ」
 当然双子は言うことを聞かなかった。

 三時のおやつには安い三連のプリンを開けて、リビングテーブルに座らせた双子の前にそれぞれ置く。臨也は一つ残ったプリンはそのままに、すぐに口元を汚したりこぼしたりするのを時折拭ってやった。プリンに熱中する双子から、頬杖をついた臨也が意識を他所へやったとき、玄関からガチャリと鍵を開ける音が聞こえた。
「「お母さん!!」」
 言うが早いか双子は玄関へ駆け出して行く。やはり母親が良いのだろう、臨也は思わず伸ばしかけた手を下ろして二人を追った。
 しかし、こんなに早く帰ってくるだろうか。廊下を進みながら、臨也の胸中に疑念が渦巻く。母は夜まで帰らないはずだ。
 背筋に悪寒が走る。廊下を大股に駆け抜ける。
「ちょっと待て、お前ら!」
 まさか、と思いながらも朝のやり取りが脳裏をかすめた。玄関の手前で二人が突っ立っているのが見えて、背筋が凍った。
 ――――――母さんじゃない。

作品名:愛着理論 作家名:窓子