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愛着理論

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 新羅が悪びれもせずに笑う。厄介ごとが去ったのは有難いが、新羅の言う運び屋の姿が見られなかったことに、臨也は愕然とする。わざとタイミングを計ったのでは無いかと新羅を睨め付けると、新羅が先手を打って牽制した。
「だって待ってもらうとご近所で噂になるよ。目立つの嫌なんでしょ?」
 確かにその通りだが、ちゃっかり連れられた双子が目を輝かせているのが、余計癪に障る。
「すごい」
「すごいよ」
「猫みたい」
「早いの」
「黒いの」
「かっこいい」
「…………何それ」
 興奮覚めやらぬ様子の双子はあれこれ臨也に訴えるが、さっぱり意味が分からない。アニメ映画に出てくる猫型のバスを連想したが、どうにも違うようだ。新羅は何も言う気は無いようでへらへら笑っている。
「ノートご苦労様。運び屋のお代は今度徴収するからね。あと手も明日包帯直してあげるから」
「ていうか結局何だったの? 教えてくれてもいいでしょ」
 気になって仕方がない。臨也は締め上げてでも吐かせようかと考え始めた。元々運び屋というと、薬物や重火器など反社会的なものを扱うイメージだが、新羅の言うところとは少し違うようだ。人間が入ったトランクも反社会的ではあるが、臨也の頭からは抜け落ちていた。
「それはこっちの台詞でしょ。アレ結局何だったの?」
 新羅は少し考える仕草をしたが、同じ言葉で切り替えした。臨也が言いたくないことを理解した上での発言なのは、表情を見れば明らかだった。
「……秘密」
「じゃあこっちだって秘密さ。無闇に自分のカードを晒すつもりは無いよ」
 新羅は無邪気な顔で笑う。そう言われてしまうと、臨也には何も言えなかった。
「ていうか、スーツケースは返して欲しかったんだけど……」
 臨也は一端引き下がり、もう一つ気がかりなことについて言及する。運び屋については、後日上手く口を割らせることにした。そう考えつつも、実際はかなり困難だろうと見当をつける。
「そうなの? 明日学校までならもって行くけど?」
「明日? 今日じゃ駄目なわけ?」
 学校にスーツケースは目立ちすぎるだろう。それ以前に、今日両親にバレないとも限らない。
「うーん。僕の体は空いてない」
「……そんなに数学の問題集が好きだとは知らなかった」
「僕は正直どうだっていいんだけどねぇ」
 新羅は明後日の方向を向いて溜め息を吐いた。
「……わかった。明日でいい」
 臨也はこれ以上食い下がっても仕方がないと判断して、渋々折れた。
「あぁ、そっちね。じゃあ僕は数学の問題集とよろしくしなきゃいけないから。また明日ね」
 歯切れの悪い返事を残して、新羅はノートを振りながら門をくぐった。双子が力いっぱい手を振るのに振り返す新羅を見送ると、臨也は押し寄せる疲労に瞼を押さえた。結局臨也の手元に残ったのは、二本目の家の鍵と、皮財布と。
「……運び屋のお代っていくらなんだろ」
 双子を家の中に連れて入りながら、ぽつりと呟いた。

作品名:愛着理論 作家名:窓子