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オージーボカン 風雲ハリウッドヒルズ

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「うん!デイジー!」
 デイジーの声に応え、ヒューの伸びやかな肢体はその最大限のバネを以って、とっておきの技を繰り出した。
 放たれたマラカスはデイジーの銃から出たエネルギーを纏い、その絶大なる威力とスピードを示すかのように鮮やかな赤の軌跡を描きながらキャデラックへと向かう。
悪の英国へ鉄槌を下すために。
これで最後だ。
ヒューはそう思った。
これで、きっと…「終わりになってしまう」。



向かってくる赤い弾丸を見て三者三様に青ざめた英国人たちだったが、迫ってくる車を目の前にした猫のように固まってしまったルパートをキャデラックのドアを開けて後部座席に突き飛ばしたコリンはすぐに助手席のナビゲーションシステムの前に自分を飛び込ませ、備えられた防御機能を全て開放した。
シールドの起動とともに、キャデラックの周囲の重力が変化する。
車体の下から立ち上がった何条もの光は、幾重もの靄のような揺らめく光に変化しながらキャデラックを半円状に包みこみ、撃ち込まれる赤い鉄槌と拮抗した。
まるで盾を抉ろうとする剣と、剣を割ろうとする盾のように二つの力はせめぎあい、火花を散らす。
「もっとエネルギーを…!」
 デイジーがマラカスにさらに力を与えるよう援護しようと向かって歩みかけたが、彼の前に立つヒューは声も出さず、その腕でクリスタルガンを構えたデイジーをさえぎった。
 キャデラックの助手席から立ち上がった男を見据えている、その横顔がいつもは朗らかなヒューが滅多に見せないような厳しさに強張り、腕を振り切ろうとしたデイジーは声をのどの奥で詰まらせた。
 やがて、マラカスは勢いを失い、芝の上に転がり落ちた。シールドもシャボンの泡のように弾けて消失する。

「これでイーブンだ」
 車上の男がヒューとデイジーに静かに言い放った。
「…っ!」
「我々はこれで引かせてもらう」
 コリンの背後で運転席のヒューが快哉を上げた。
「エンジンがかかったぞ!」
「ルパートの銃は君たちに預けておく。…本人が眠ってしまったので今のうちは異論を聞かなくて済む」
 目の端でコリンは後部座席で気を失っているルパートを見やると、ヒューに車を出すように指示した。
「待て!クリスタルを返すんだ!」
「それはもちろんだ」
 あっさりと返ってきた言葉に正気でいる全員が目を丸くした。その中でコリンは気絶しているルパートの胸ポケットからクリスタルを取り出してみせた。にこりともしない表情で。
「おい…!コリン!」
「静かに。起きたらややこしくなる」
「…なぜだ…?」
 デイジーは聞いた。コリンの声は変わらずにこりともしない表情で淡々と答えを返した。
「その答えは君の隣にいる男がよく知っているはずだ」  
 ヒューが?
 デイジーは訝しげに隣のヒューを見た。ヒューはコリンに何かを言い返しかけていたが、すぐに唇を引き結んだ。
ただ、コリンを全身で警戒するように睨みつけていた。


「そこの彼に」
 クリスタルが、倒れているトビーを膝に抱えたレオへと投げられた。
レオは胸元に飛び込んできたクリスタルを捕まえると、それはすぐにレオとトビーの間でさらに赤く輝きを放ちはじめ、レオの手から、眠るトビーの体へと吸い込まれるように降りていく。
 トビーの中に消えていった光は、最後に爆発的な光の輪を広げて、周囲にいたヒューとデイジーがあまりのまぶしさに腕で目を覆わずにはいられなかった。
 クリスタルをその体に飲みこむ反作用でトビーは大きく震えていた。
「トビー…!」
 レオは叫んで、トビーの体を光の中でぎゅっと強く抱きしめた。









アクターズクリスタル『スパイダーマン』が放つ強い光が全て本来の持ち主の元へ収束した時、庭は昼間の陽光のなかで静かに緑の芝生を映じていた。
その緑の柔らかな芝生の上でトビーは目が覚めると、なにやら自分の体に重なり合っているものがあることに気がつき、それが幼馴染みだとわかると、ぼんやりと「おいレオ、寝てるなよ」と呟きかけた。
そして、今までのことを思い出して慌てて背中を起こしたが、なぜか自分の肩に腕を回して掴んで離さない幼なじみを貼り付けたまま、周囲を見回した。
なにもない。
車も、英国とオージーの変な男達も、削られた芝の跡もない。
レオの肩越しに静まり返った庭を見ながら、トビーはあれは夢だったのだろうかと考えた。
そのうちにうーんとくぐもった声を出して、レオがトビーに抱きついたまま目を覚ました。
そして、トビーの呆れたような顔を目にすると、すぐにうれしそうに目を輝かせて、さらに強く抱き寄せた。
「かわいくなくていいからさ…ケチで守銭奴で口が悪くても…お前だから…おれは…!」
「いきなり誰の話だよ!」
「ばか!お前に決まってるだろ、トビー!」
 笑いながら抱きついてきた幼なじみの言い様に頬を膨らませて憤慨したが、じきにトビーもなんだか笑いたくなってきた。
「レオなんてさ、すぐエラぶるし、ガキ大将まるだしだし、役者馬鹿だし、モデルの脚ばっか観てるし、わざとアホなこと言うし、愛車はプリウスだし」
「プリウス馬鹿にすんなって!最高にエコなんだからな!愛してるぜ!ナンバーワン!」
「エコ!」
CMの真似をして笑いながら芝生を転がっていると、二人は4本の柱にぶつかった。
もとい、それは4本の脚だった。
寝転んだ二人がはっとわれに帰って、見上げてみると、レオの母親と、先日までは確かに彼の恋人だったジゼルの顔があった。




「やっぱりねえ…」
ため息をつきながら、エプロン姿のレオの母は首を振りつつ、こう言った。
「孫は望めないか…」

「え」

「レオ、私はわかっていたわ」
 その隣に立つジーンズに包まれた長く細い完璧な脚を持つ美女は毅然として口を開いた。
「けれど、私もナンバーワンになりたいの。でももう、トビーに譲るしかないとわかったら…私は…自分の生きる世界でそれを獲るわ。私が欲しかったのは他のものだったこと…覚えておいてくれなくてももういいわ…!」
 彼女は身を翻す。
「ちょ…待て!ジゼル!」
「誤解だよ…!追え!追いかけるんだレオ!」
 
 トビーがとりあえずレオの母親に「おばさ~ん!誤解だよ~」「でも業界は多いっていうしねえ…近所のマット君とベン君もそうなんでしょ」「あっちはそうかも知れないけど、こっちは違うよ~」「あっちがそうなら、こっちがそうでも、ねえ」「おばさんは信じたくないのと信じたいのどっちなのさ!」「おばさんはね、いつでもレオとトビーの味方だからね…」「だから違うって!」とスプーンで海の水をすくうようなきりのない説得を試みる中、半泣きでレオはよろよろと戻ってきた。
ジゼルは足が速かった。元スプリンターの脚力はヒールを履いても健在だった。
 トレーニングをさぼっていたレオは彼女の足元にも及ぶことはできなかったのだ。
 いきなり走りこんで横腹まで引きつるように痛い。
「うう…」
 二人の前で芝生に仰向けに転がったレオに、トビーはせめてもの優しさで水でも飲むかと聞いてみた。
 こくこくとレオが無言でうなずいたので、離れている木陰のガーデンテーブルに置いてあるミネラルウォーターへとトビーは無意識のうちに手を伸ばし、そして引き寄せた。