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願わくばもう一度・・・

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「姉上・・・?」
幼い頃の記憶にある、髪を一つにまとめたミツバが総悟の瞳に映る。
「もう、総ちゃん遅いから近藤さんが迎えに来ちゃったわよ。急いで支度しないと。」
縁側に顔を向けると髪を結った近藤が、枕元を見ると着替えが畳んで置いてあった。手にとって立ち上がると、ミツバの顔が近くにきた。そう思ったのは一瞬で、自分が小さくなったことに気付いた。目をこする手が小さい。
「まだ眠い・・・」
声も、昔よく聞いた自分の声だ。それとも今まで現実と思っていたことが長い夢だったのであろうか。いや、とても夢だったとは言えない。自分の頬から滑り落ちていく手は、手の中で次第に冷たくなっていく手のぬくもりは夢ではなかった。あの時目から溢れた雫の味を今でも覚えている。すると、自ずと今見ている『現実』こそが夢となる。だが先ほどの暖かい手の感触は紛れも無く彼女のものであった。夢と現実、どちらが『ホントウ』なのだろうか。
「総悟、大丈夫か?」
いつの間にか縁側から近くによって来ていた近藤が、総悟の目の前で手を振っていた。我に返って近藤を見て頷いた。すると豪快な笑顔が向けられた。今は、今だけは目の前のことを受け入れようと思った。次の近藤のセリフにソッポを向く。
「よ~し、とっとと仕度して道場に行くか!トシが待ってるぞ。」
「嫌です。だって僕、あいつと一緒にいたくないもん。」
「何言ってるんだ、総悟?いつも楽しそうにはしゃいでいたじゃないか。」
「はしゃいでなんかいないス。後輩のクセに生意気だし。」
「総悟・・・」
困った声色で名前を呼ばれた。それでも振り向こうとは思わない。
「沖田先輩、まだッスか?もう稽古の時間は過ぎてるっス。」
わざとらしい敬語が耳に入る。総悟は眉を寄せて声の主に振り返った。
「なんでてめーが来てるんだよ!こっちに来るな!!帰れよ!」
土方めがけて殴りかかろうとした。すぐさま後ろから襟首を捕られて近寄れない。両腕が空回りする。
「総悟、まだ着替えてないだろ。遊ぶんなら着替えてからにしろ、な?」
近藤の言葉に毒気が抜けた。分かったのか、近藤が手を離した。
「俺たちは先に行くから、お前は着替えて道場に来るんだぞ。」
二人の影が離れていこうとする。その影を見ていたミツバは突然、総悟に振り返った。
「総ちゃん、私も道場に行こうと思うの。一人でも平気かしら?」
あいつのいる道場に行ってほしくないと思った。だが、自分に彼女を止める権利は無い。総悟は頷いて着替えを始める。
「よかった。先に行って待っているから、気をつけてくるのよ?」
ミツバが出て行ってじきに、総悟の着替えが終わった。総悟は自分の腹に手を当てて、台所に歩いて行った。すると机の上には握り飯が2個置かれていた。総悟を起こす前にミツバが作っておいたのだろう。まだほんのりと温かい。それを平らげてから、総悟は道場へと向かった。