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和(ちか)
和(ちか)
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My home1

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My home Ⅵ


ドアが隙間無く閉じるとベールさんは髪に手を伸ばしてきた。 何食わぬ顔で髪を優しく撫でて指先で束を解くように指を通す。
扉が開く頃には丁寧に梳かれた髪がなんだか普段よりもさらさらになった気がした。 私が感触を確かめるように髪に触れているのを見てベールさんが笑う。
エレベーターを降りて家の前に立つと、扉には可愛らしい手作りの犬型プレートが掛かっていた。 真っ白いもこもこの尻尾を振ってwelcomeと言っている。

「わぁ、可愛いですね」
「ティノんところの花たまごだべ。 さ、入ってけらい」
「はい、お邪魔します」

廊下を通って部屋に入ると、入り口の真正面に大きなテレビが置かれていた。 他にも綺麗に手入れされたソファーやクッションがスタイリッシュに配置されている。 綺麗好きらしく部屋の角に埃が溜まっていないのを見て感心してしまった。 私の部屋の四隅にはいつもほんの少しだが埃が積もっていて、時々自分で見て落ち込んでしまうくらいなのに。

「好きな所に座ってくいよ」

お茶を淹れると言ってキッチンに歩いて行ったベールさんを見送ってからソファーに座ると、壁に凭れ掛かるようにして座っている熊が黒くて円らな瞳でこちらを見ていた。
淡い水色のリボンを首に巻き、ピンク色のハート型クッションを抱きしめた白いふわふわの毛の熊はお世辞にもこの部屋に溶け込んでいるとは言いがたい。 いや、それどころか落ち着いた色合いでシンプルに統一された部屋の中である種の強烈な異彩を放っている。
可愛いからこその違和感と言えば良いだろうか。 狼の群れの中に猫を入れた感じと言うと近いかもしれない、とにかくこの部屋にあってはいけない物であることは確かだ。
失礼だからあまり見てはいけないと思いながらも目が離せず熊と見詰め合っていると、いつの間にか背後にお茶を持ったまま項垂れたベールさんが立っていた。

「あっかっ、可愛らしい熊さんですね!」
「本当に?」

がっくりと下がっていた頭が少しだけ持ち上がった。 逆光でよく見えない眼鏡の奥から疑いと言うよりは、縋るようにこちらを見る水色の瞳が見える。
いつもはキリッと上がった眉毛が少しだけ下がっているのを見て思わず笑ってしまった。

「はい、とっても」
「……んだべか」

ふっと息を吐いて安心したように小さく笑う。 そして白熊を抱き上げ、棚から出した白い袋に似合うオレンジのリボンを綺麗な蝶々結びにしてこちらに差し出した。 顔と袋とを見比べていると手を取って優しく袋を持たされる。

「くれるんですか? 折角可愛い熊さんですし、飾ってたと言うことは気に入ってらしたんじゃ……」
「菊が誕生日だったべした、ほんで送ろうと思って買ったけっども俺には可愛すぎて恥ずかしかっだんで止めたんだ」
「私に……?」

顔を極僅かに赤くしたべールさんが大きく頷いた。

「良かっだら貰ってくんちぇ」

促すような視線に後押しされてリボンを解き、袋に包まれた熊をそっと取り出した。 取り出した熊を良く見てみると、その口元は微笑んでいるようにも見える。
毛は触ってみるとやはりふわふわで柔らかく、ピンクのハートクッションは極上の手触りだった。

「わぁ……! 凄く手触りが良いですね、ふわふわです」
「気に入っだんなら良がった」
「はい、とっても! ありがとうございます!」

ふとフランシスさんから誕生日に送られたあの深い蒼色の瞳のような石の嵌ったネックレスを思い出した。 あれだけに限らずあの人は私によくアクセサリーをくれる気がする、それに洋服やバックも。
そのどれもがあまりにお洒落すぎて私にはとても着けられなくて、ただただ大事に部屋に飾ってある。 そのことについて何も言われたことは無かったが、時々私の服装を見て目を伏せているのを知っていた。 だから使いたいとは思うのだ。
でも私には不釣合いに感じて落ち着かなくて、慣れなくて結局は使わないまま置いてしまう。 私はなんとなく、それが私とフランシスさんの交わらない何かを表しているのではないかと感じていた。
そんなことを考えていると顔を覗き込まれて我に返る。

「へっ、部屋に飾りますね!」
「そうけ、抱き枕にでもしでけろ」

よしよしと優しい手付きで頭を撫でられた。 眼鏡の奥の目が優しげに細められて思わずつられて笑い返す。

「座って茶でも飲まねがい」
「あっ、いただきます」

お盆から机に移されたカップは片方がスウェーデン国旗柄のマグカップ、もう片方は日本の国旗柄マグカップだった。
これを一体なんの用途で買ったんだろう。 まさかデザインが気に入ってとかは流石に無いだろうし、国旗が好きで集めてるとか言うことだろうか。
思わず失礼とは思いながらも顔を近づけてまじまじと見つめる。

「日本国旗……フィンランドのもあるんですか?」
「いや、ねぇけっども」
「えっそうなんですか?」

一人用のソファーに腰掛けたベールさんがきょとんとした顔でこちらを見る。
じゃあ何故敢えて日本国旗のを買ったんだろうか、言い難くはあるが明らかに雑なデザインだと思うのだが。 日常で使うには真っ白に巨大な赤丸が描かれただけのカップは辛いはずだ。
しかしベールさんは特に気にした様子も無く自国のコップを使ってコーヒーらしき飲み物を飲み始めた。 私の分のコップには紅茶が入っている。
準備室で手伝いをしたとき、ご褒美の130円でいつも紅茶を買っていたのを覚えていてくれたらしい。
優しい気遣いに思わずにやつくと頬を突付かれた。

「何笑っでる。 飲まねぇのけ」
「いえ、ありがとうございます」

紅茶に口をつけると、アップルティーだったようで林檎の良い香りがした。
綺麗な紙に包まれた角砂糖を溶かしながら恐らく親しい人にしか分からない程度に微笑んでいるベールさんを眺める。
そうしていると、前の高校での楽しかった思い出が浮かぶから。 勿論今の高校も楽しいが準備室で資料作りの後で飲んだミルクティーやこっそり学校に忍び込んでしたクリスマスパーティー。 夏休みに私達のグループ以外は誰も居ない校庭でシュールストレミングを開けた時のことは今でもハッキリと思い出せる。
ベールさんが平然と缶の中の汁を校庭にあった池の中に捨てた時は、バレたらさぞかし怒られるんじゃないかとドキドキしたものだ。

「……あれは本当に凄まじい臭いでしたねぇ……」
「何が?」
「シュールストレミングです、校庭で開けたことがあったでしょう?」
「あぁ、本当は水ん中で開けるといいんだけどない」

長い足を組んでコーヒーを飲みながら頷く姿は宛らモデルのようだ。 自分の周りにはどうしてこんなに不釣合いに整った顔立ちの人が多いのかと考えてみるが、答えは出なかった。
それは偶然だからなのだろうが、運が良いような悪いような不思議な気持ちだ。 そう考えると改めて私にそっくりの見た目も性格も冴えない父があんなに美人な女の人と再婚できたのも結構な奇跡なのだろう。


作品名:My home1 作家名:和(ちか)