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和(ちか)
和(ちか)
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My home1

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My home Ⅶ


不意にちらりと浮かんだお母さんに良く似た癖の強い金の髪を振り払うために軽く頭を振っていると、ベールさんが目を細めた。 その意味を図りかねた私を見て組んだ足を下ろし、テーブルに手をついてぐっと身を乗り出す。 その瞬間、ふわりとベールさんの香りが鼻を擽った。

「ベールさ……」
「んだにあんにゃが気になんのけ」

私の目線よりもほんの少し高い位置からベールさんに見下ろされる。 厳しい顔、と言うよりはどちらかと言うと不満そうな顔が近いだろうか。 そんな拗ねたような表情でじとっと見つめられて目を逸らした。
そして低い声で問うのと同時に空いている手で右頬を擦られ、前髪をそっと掻き揚げられる。 ベールさんが晒された私の額を見てフッと吐息で笑った。去り際に中指が私の唇をなぞり、目は私を見たままで色素の薄い桃色の唇がその指に口付ける。 ちゅっと離れる時に鳴った音が静かな部屋に響き、恥ずかしくて顔から火が噴き出しそうになった。 と言うか自分が気づいていないだけで実はもう燃えているんじゃないだろうか
一体何がどうしたのか、どう返事をすれば良いのか分からず只管おろおろしていると眉を顰めて更に顔を近づけられた。 冷たい光を放つ水色の瞳が至近距離でこちらを凝視する。 その瞳がえも言われぬ熱を持っているような気がするのは何故なのだろう。
どうしたらいいのか戸惑って目を伏せると、ベールさんが小さな声で何かを言った。

「え?」
「……ちょっと前までは、俺が一番好かれてたべ……?」
「あぁっ、そう言うことですか! 大丈夫ですよ!
 ベールさんのことも今でもちゃんとお兄さんみたいに好きです!」

確かに引っ越してフランシスさんと二人暮しをはじめるまでは、ベールさんをとても慕っていた自覚があった。 と言うか今だって素敵な人だと思っているし尊敬もしている。
力強く頷いてみせると、何故か凄くガッカリした顔で深い溜息を吐かれた。 ふいっと顔を逸らして横目で見られる。

「な、なんですか……?」
「俺んこと、どう思ってる? 今言ったみてぇに、あんにゃとしか見てねぇのか?」
「えっ、だって……他にどう……」

言っていることの意味がよくわからなくて首を傾げた。 それ以外に一体どんな見方があるというのか。
父親みたいに或いは親戚のように思われたい、もしくは友人のようにと言うことだろうか。 もっと教師として尊敬されたいと言うのは今までの関係を考えても流石に無いはず。
そこまで考えて、人が他者に対して与える位置付けと言うものには然程の種類が無いことに気づいた。 私達はこんなに少ない分類の中で人と関わりあっていたのだ。
結局どれだけ考えてみてもわからず聞いてみようと顔を上げて、口を開いた瞬間突然その言葉の持つ真の意味に気づく。 私が意図的に除外していた、重要で大切な位置を。

「……そんな、まさか……」

口元を覆う右手が震える。 それをぎゅっと左手で押さえつけて、縋るようにベールさんを見上げた。 けれど横目でこちらを見返す瞳は先程と少しも変わらず熱を孕んでいた。
私は誰かを想う気持ちが報われることも誰かから想われることも無いと漠然と思っていた、それが何故かはわからないけれど。
自分が誰かを傷つけることになるなんて絶対に無いと信じていたのに、なのにこんなことになるなんて。
とても悲しい予想とその結末を追い払うように首を振って、否定を待つ。

「わがったか?」
「でも、そんなこと一度も……!」
「教師と生徒で男同士で、言えるわけねぇべ。
 んだけんどもあんにゃを好きんなったなんて言われて黙っていらんねぐなった」

それだけを言って、不意に悲しそうな顔をしたベールさんは飲み干したコーヒーを淹れに行ってしまった。 居辛くなったのかもしれない。
私はどうしたら良いのかまだわからなくて、両手で顔を覆う。 もう出来ることならこの場所から逃げ出してしまいたかった。
ベールさんのことは好きだ、でもそれは愛ではないと思っているし恐らく本当にそうだろう。 でもあんなに良くしてくれた人に対して素気無く断ることなんて出来ないし、したくない。
どんな風に言えば傷つかずに済んで今のままでいられるのかを考えてみても、何も良い方法が思いつかなかった。

「……返事は今すぐでねくても良いけっども、無かったことにはできねってことだけ覚えててくんろ」

何時の間にかリビングとキッチンのドアの枠に寄り掛かったベールさんがこちらを静かに眺めていた。
ゆっくり私に近づいて腕を広げて抱きしめる様な仕草をして、結局一度だけ頭を撫でた手が去り際に頬に触れる。

「この機会にあんにゃとのことも、よく考えてみてみたら良いべした」

白いテディベアを小脇に抱えたベールさんに手を取られて立ち上がるとそのまま緩やかに繋いだ手を引かれ、玄関に連れてこられた。
その状況はここに来るまでと変わらない筈なのに、今となっては全てに私への想いを感じてしまって、自意識過剰を思いながらも羞恥と居た堪れなさが押し寄せる。

そんな私の様子に気づいているのかいないのか、もしかすると分かっていて気づかない振りをしてくれているのかもしれない。
とにかく穏やかな様子で見送られて、家を出た。

「送ってってやりたいけっども、落ちつかねぇべ。
 まだ明るいって言っても気いつけて、人通りの多い場所通りなんしょ」
「はい」

少しでも早くベールさんの家から離れるために大急ぎで足を動かす。 まるで逃げるようにマンションから距離のある公園に着て、ブランコに座った。
フランシスさんが居たらと思うと家にも帰り難いし、あのまま家に居ることは出来ない。 それに、フランシスさんが居たら気まずいが居なかったらそれもまた落ち込むと自分でも分かっているのだ。
状況は完全な八方塞がりになってしまった。 言ってみればベールさんが私にとっての最後の砦だったのに。
ルートヴィッヒさんやフェリシアーノ君に相談してみようか。

「いいえ、ダメです」

ルートヴィッヒさんに言ったら生真面目で世話焼きの彼を無駄に悩ませそうだし、フェリシアーノ君に言ったらお兄さんからアントーニョさんに伝わり最後にはフランシスさんに知られてしまいそうな気がする。 勿論故意に言うとは思っていないが、隠しておこうとしたのにツルッと口が滑ってという可能性が否定できないのがフェリシアーノ君だ。
思考がまた振り出しに戻ってしまって頭を抱える。 結局のところ、私は一体どうしたいのだろう。 そもそもよく考えてみればどうしてフランシスさんに隠しておく必要があるんだろう。

「普通に考えてみたらこう言うときに一番信頼できる相談相手ってフランシスさんなんじゃないですか……?」


作品名:My home1 作家名:和(ちか)