ひとりで少年探偵団
「そういやそうだったな。じゃあ俺達もゆっくりでいいんじゃねえのか?」
からかっているのか、本心からなのか良くわからないスペインの言葉に、暢気に欠伸をしたフランスが少し寝癖の残った髪を混ぜる。
「……自習であろうとなかろうと、遅刻は良くない」
「ドイツは真面目やなあ」
「プロイセンも少しは見習えばいいのによ」
「お前達も、急がなくていいのか?」
「そやなあ、朝飯食いっぱぐれたらいややもん」
「お前も急いだ方がいいんじゃないのか、ドイツ」
「……言われなくてもわかっている」
朝から騒がしい二人からなんとか逃れ、ドイツはようやく目的の階に辿り着いた。
全く、今日は運が悪い。同じ寮に住んでいるのだから、遭遇する確率は高いのだが、急いでいる日に限って顔を合わせてしまうのは何故なのだろうか。
ドイツは強張った肩から力を抜いて、長い廊下を進んだ。
寮の最上階である三階の、更に一番奥がプロイセンの部屋だ。
ドイツは閉じた扉の前で緩みそうになった表情を引き締めた。
握った拳で、軽くノックをしても、返事は無い。これも、いつもの事だ。熟睡しているプロイセンは、小さな物音で起きることは無い。
「やはり寝ているか」
ドイツはキーチェーンから自分の部屋の鍵以上の頻度で使う合鍵を選び取り、プロイセンの部屋を開いた。
ドアノブに手を掛けながら、息を短く吐く。毎日のことなのに、何故か緊張している。きっと、スペインの余計な一言が原因だ。
「まったく、何がゆっくりで構わないだ」
二往復ゆっくり呼吸をしてから、ドイツは軋む音をさせる扉を開いた。
「兄さん、入るぞ」
声を一応は掛けたものの、返事は期待していない。
プロイセンの部屋は、物が多い。
妙なぬいぐるみから、植物やら、書き溜めている日記や教材など、収納能力以上のものが部屋に散乱している挙句、整理もされていないので、余計に混沌とした風景になっており、ドイツは溜息を漏らした。
「先週片づけたばかりだというのに」
獣道のようになっている床を踏み、ドイツはだらしなく寝息をたてている兄の元へ息を殺しながら辿り着いた。
布団を蹴散らし、体を丸めて眠るのは、プロイセンの癖だ。
以前、どうしてそのような格好になるのかと聞いたことが一度だけあるが、明確な回答は得られなかった。
本人も良くわかっていないのだ。