ひとりで少年探偵団
ドイツはきっちり背を向けたまま、腕時計で時刻を確認した。もうあまり、時間が無い。
早くしろ、と急かすべきなのだが、服を脱ぎ捨てる音や、シャツを腕に通す乾いた音を聞いていると、なにやら勿体ない気分になってしまい、なおもドイツを悩ませる。
「よし、着替え終わったぜ。もうこっち見てもいいぞ」
「兄さんはわかっていて、俺をからかっているのか?」
「なんでだよ」
過敏な年頃の感情を理解しろというのも、プロイセンには無理なことなのかもしれない。ドイツはそんなところも好きなのだな、と思いながら、息を漏らした。
「どうした?」
「いや、ともかく着替えたならば、早くここを出よう」
しかし、ドイツの視界に入ったプロイセンは、着替えたとはいえ、制服をだらしなく着崩しており、特にボタンを満足に留めていない白い襟元が目立った。
首筋には、ドイツと揃いの、クロスペンダントが下げられている。
「兄さん、だらしないぞ」
「いつもこんなもんじゃねえか。タイなんてどこかいっちまったぜ」
確かに、ドイツはプロイセンの制服の崩し方に対し、あまり煩く言うことはなかった。学校規則も緩いので、上級学年に関わらず、皆自由に制服を着こなしている。
それなのに、今朝に限って咎めたくなってしまったのは、紛れも無く、先ほど押しつぶしたプロイセンの体の感触が残っているからだ。
「……待っていろ」
ネクタイ探しをあっさり諦めてしまうプロイセンに代わり、ドイツはまるで自分の部屋のクローゼットのような熟知ぶりで、しばらく眠っていたネクタイを取り出した。
「ほら、結んでやる」
「お、おう」
だらしなくシャツのボタン、上三つを開けっ放しにしたプロイセンの襟元をきちんと閉じてやり、ネクタイを首に回し、少しきつめに結びつける。
薄そうな喉から鎖骨への肌が隠れると、ドイツは安堵した。
「どうも窮屈なんだよなあ」
ネクタイを結ぶことに慣れていないプロイセンは、不満そうに唇を尖らせる。
「兄さんは損をしている」
「なんでだよ」
寝癖のついた跳ねた髪も手櫛で整えると、いくらかまともになった。
「からかわれるのが嫌だといつも言っているだろう?」
「んあ? ああ。フランスとかスペインとか、あとイギリスの野郎にか」
「そうだ。こうしてきちんとしていれば、兄さんに隙など見つからない。完璧な俺の兄だ」