ひとりで少年探偵団
プロイセンは困った顔を浮かべ、久しぶりに結んだネクタイの先を指で摘んで揺らした。
「外見だけ取り繕ってもなあ」
「兄さんは出来るのにしないタイプだからな」
「買いかぶりすぎだ」
「そうは思っていない」
いくらドイツが真面目に言い募っても、プロイセンは暢気に笑うばかりで、取り合おうとしない。思慮深い癖に、いつもふざけて場を乱してばかりのプロイセンを、ドイツは歯がゆく思っている。
「お前って本当に俺のこと好きだよな」
「っ、なぜ突然そんな話題になるんだ」
「お前が俺のこと褒めるのって、お前の目に、俺がすんごくかっこよーく映ってるからだろ」
「違う。俺は貴方を好きだが、それ以上に尊敬もしていて」
「惚れてるから、ってことにしておけよ」
甘い言葉であっさりドイツを突き放したプロイセンは、ほとんど空に近い鞄を拾い上げ、脱ぎ捨てた靴を手繰り寄せた。
「……兄さん」
「俺は馬鹿だからさ、よくわかんねえんだよ、俺はやりたいようにやってる訳だし、それがいいことかっつーと、よくわかんねえ。お前にもしょっちゅう怒られてるしな」
「確かに兄さんの行動は、褒められたものではないものが、多いと思う」
「おいヴェスト、お前さっきまで褒めていなかったか?」
きちんと靴を履き終えたプロイセンより先に、ドイツは部屋の扉を開いた。もうほとんどの生徒が登校した後なので、寮内は不思議な程静まり返っている。
「根本の部分での話をしている」
「ややっこしいなあ」
「つまり、もう少しだらしなさを抑えてくれ、ということだ」
出来ればドイツも苦労はしない。
しかし、プロイセンというバランスの良くも悪くもある人格に振り回される毎日が、ドイツにとっては嬉しいものだった。
一体どちらが本心なのか、ドイツ自身にもわからない。
「ちぇ。朝は苦手なんだよ。それにこのネクタイも窮屈じゃねえか?」
プロイセンは指定のブレザーではなく、愛用のパーカーを着込んでいる。柔らかそうなフードが、とても可愛い。きっちりした襟元とのアンバランスさが、ついつい目を引いた。
ネクタイも整えたのだから、ジャケットもきちんと着込ませれば良かったのだが、ひとまず喉元を隠せただけで、ドイツは満足だった。
だが、のんびり兄の姿を眺めている時間も無かった。
始業のベルが鳴るまで、あと十分も無い。
「うう、腹減ったぜ、ヴェスト」