ひとりで少年探偵団
ドイツも、早く自転車を置き、教室に向かわなければならない。だが、兄に呼び止められては、背を向けることも出来ない。
視線をちょろちょろ彷徨わせ、言い難そうにするプロイセンにドイツは首を傾げた。
「兄さん?」
「だからよ、ええとよ、後でさっきの続きっつーか……」
そこまで言われて、わからないドイツではない。
「だからな、授業終わったらお前んとこ……」
「わかったからそれ以上言わないでくれ!」
ドイツは慌てて、それ以上の言葉を遮った。ただでさえ、自転車を全速力で漕いで来た所為で心拍数が上がっているというのに、これ以上鼓動が早くなれば、心臓が止まってしまうかもしれない。
「……な、なんだよ、俺から誘うなんて滅多にねえんだぞ!」
「っ、そうじゃない!」
ドイツは珍しく声を荒げたが、語尾がひっくり返ってしまった所為で、威圧的なものにはならなかった。
「ヴェスト?」
「兄さんはこのままどこかに連れ込まれたいのか?」
ドイツはプロイセンの手首を、痛いくらいの力で掴んでいた。隣で支えていた自転車が音をたてて倒れたが、ドイツの耳には入らなかった。からからと、車輪が回る音が、響いた。
「……な、なんだよ」
「俺がどれだけ我慢していると思っているんだ」
「そ、そんなの俺だってなあ!」
赤い顔をしたプロイセンが凄むが、勿論効果は無い。
「兄さん」
「う……」
「授業が終わったら、迎えにいく。それでいいな?」
プロイセンを相手にする場合、多少の強引さが必要だ。
ドイツは掴んだままのプロイセンの腕を引き寄せ、人気が無いのをいいことに、唇を奪っていた。触れ合った部分が、緊張に震えている。
「兄さん」
触れてしまえば、もっと欲しくなる。逃げそうになるプロイセンの腕を更に強く握り締め、ドイツは唇の中を荒らしてしまいたい衝動に駆られた。
「駄目、だって、ヴェスト」
「駄目なものか」
「お前さっきは遅刻っつったろ……」
あれだけ我慢したというのに、再び揺さぶりを掛けるプロイセンが、愛おしくも憎らしかった。
だが、互いに求め合う口付けの最中、軽い調子の始業ベルが鳴り響き、二人は同時に体を離した。
「やべっ、遅刻だ!」
ベルの音に驚いてしまったドイツの腕からプロイセンはするりと抜け出した。
「お前も、急げよ、やばいぞ!」
「あ、ああ」