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さようなら、恒常な日々

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門田は高校1年の3学期になっていた
そして2学期の後半から新しい友人というものに振り回される日々に投じている

「ちょっと聞きなよ、ドタチン」
「だから、そう呼ぶな。俺は門田だ」
「まったく、なんで死なないんだろう、あのパツキン・・・この前の夏休みなんかナイフとか釘バットとか鉄パイプとか持った50人くらいのチームを嗾(けしか)けたっていうのに1時間くらいでのして、怪我はほぼ軽傷
その後、怒りのままに行動して、新羅と一緒に歩いてた俺を追いかけてきてさあ、池袋中を鬼ごっこして、ゴミ箱とか放置自転車とか細い電柱やら街灯引っこ抜いてブン投げてくるし
折角2人で学校の怪談の映画見に行く予定だったのに、あ、イラついてきた・・・なんかいい殺害方法ないかな、外傷的要因で、いい考えある?ドタチン」
「俺は殺人の片棒を担ぐ気はないぞ」

時々平和な昼休みは今も続いており、同じクラスになり、出席番号の関係で前後の席になった折原と門田
そして何故かこの教室で1番話しかけられている

以前何故俺に話しかけてくるのか、と聞いたことがある
そして折原は言った
『君が無頓着な人間だからだよ』
折原は俺の質問にそう答えて、教室を出て行った

無頓着って無関心ってことだろう?
そんな人間だから、俺に話しかけてくるのか?
意味が分からない

俺にしてみれば、目を見て話している時点で当てはまらないはずだ
どうして、俺を無頓着な人間にカテゴライズしたのだろうか
ぼーっと折原が出て行ったドアを見ていたが、クラスの友達が話しかけてきたのでその疑問を頭の片隅に追いやった

「あー・・・やっちまったか」

質問をしてから数日後、あと少しで3学期の終業式がある頃
門田は珍しく折原と平和島の戦争に関わってしまい、怪我をしてしまった
怪我とはいえ、平和島が投げた机に思い切りぶつかり、壁と机に挟まり、青痣とかすり傷ができてしまっただけだが
本日の戦争が終結し、生徒たちは呻きながら、ケガ人を保健室に向かわせだした
門田も念のため、と友人に言われ、一緒に向かった
案の定保健室は満員御礼
10数人もの生徒が駆けこんでいる
しかし、様子がおかしい

「はい、キットを渡すんで、今日お風呂上がりにでも消毒してから張り替えてくださいねー」
「ああ、わかった・・・ありがとな」
「はいはい、お大事にー。次の人どうぞー、学年と組と名前を教えて下さい・・・病状は痛そうな青痣か、ちょっと触診するんで、痛かったら言ってくれます?」

中で対応しているのはどうみても学生だった
白衣を着て、普通に保険医が座るべき場所に堂々と座っている
しかも、それはあの2人の友人
思わず後ろから着ていたクラスメートに話しかけた

「おい、なんで岸谷がいるんだ?」
「あれ門田、知らないのかよ?2学期の中ごろに保険医はついていけませんって退職したじゃん」
「・・・そうだっけか」

そういえば平和島と折原の毎日の喧嘩で絶えない怪我人と時々やってくる張本人たち
噂であったな・・・保険医がノイローゼ気味で不眠症になってるとか
3学期から見てないのはそのせいか
普段保健室なんて気にしてなかったから気付かなかった

「そうなんだって。んで、学校側も保険医がいないのは致命的ってことで悩んだ末、医者の息子で毎日折原達の怪我の治療をしてる岸谷に臨時保険医頼んでるんだよ」
「は?マジでか?本当の保険医はいねーのか?」
「あー、いるにはいるんだけど、怖くて週に1,2回しか出勤してこねーんだと。ま、しゃーないよな、保険医だったらいつ怪我したっつって折原とか平和島が来るかわかんねーし」

どうやらほとんどの生徒が事情を知っているらしい
それでいいのか、学校よ
と言いたいが、折原と平和島のことを思えばなんとなく頷いてしまう
岸谷はちゃっちゃと氷嚢を取り出して、生徒らしからぬ素早さで怪我人を処置している
きちんと声をかけながらしているのは昔行ったことがある小児科医を思わせた

「おい、新羅」
「ん?ああ、静雄か。どうかした?」

ぼけっとして様子を見ていると俺の隣から平和島が顔をだしていた
身長はだいたい同じくらいだが、威圧感が半端ない
慣れない生徒からは小さな悲鳴が上がっている
しかし、気にしてないのかいつものことなのか平和島はそのまま肘の治療を続けている岸谷に話しかけた

「ノミ蟲に水の入ったドラム缶落とされて咄嗟に腕だしたら手ひねった、んで殴りに行ってボコッてたらナイフで太もも刺された・・あー、うぜえブッ殺してえ滅殺激殺瞬殺殺殺殺殺」
「ちょ、大丈夫かいそれは?!いや、普通に歩けてるから大丈夫かもしれないけれど!!」

ちょうど治療を終えたのか肘を怪我していた生徒にそのまま氷嚢を当てるように告げて、本人曰く重症な平和島の診察をした
それが正解だと思うぜ
生徒はほとんどが青痣、擦り傷、時折捻挫であり、刺し傷よりは軽傷だ
誰もいないベッドに上がらせ、平和島の太ももの患部より心臓に近い部分をタオルで縛って止血する

「とりあえず、もうちょっと待っててくれるかな?」
「おう」

冷蔵庫を開けて平和島に牛乳パックを渡し、再びこちらに戻ってきた
治療を終えた生徒は逃げるようにここから去り、いるのはまだ治療されてない自分を含めた5人ほどの生徒だけだ
色々声をかけながら、先ほどよりも早い治療スピードを見ながら、別に自分は湿布だけでいいんだが、といいそうになる
10分程経てば保健室にいるのは俺と岸谷、平和島の3人だけになった

「えっと、君で最後だね、学年と組と名前を教えてもらえます?」
「ああ「1年C組8番門田京平クンだよ、新羅」
「てっめっっ!!」
「あーあーあー、落ち着いて!俺の仕事を増やさないでぇえ!!臨也もからかわない!!静雄は座る!!」
「まだ俺からかってないけど?」
「先手必勝!先に言っておけば注意するだろう?臨也はこっちでこれ飲んでて!」

平和島はとりあえず怒りを納め、再び牛乳を飲みだす
岸谷は屁理屈をいいそうで平和島をからかうように言うが注意され、反対側の方で黄色の野菜生活ジュースを手渡された

「げえ、俺野菜嫌い」
「うん、ジャンクも嫌いで無駄に手料理しか食べないくせに野菜嫌いなんだから少しは栄養をとりなさい!」
「ええー、別に今まで生きてるんだしさぁ」
「だーめ!偏食な臨也の為に紫じゃなくてまだ好きな黄色を買ったんだから、大人しくする!・・・で、門田君、何処が怪我?」

大人しくジュースを飲みだした折原に少し目を丸くさせる
あの傍若無人を絵に描いたような人物を大人しくさせるとは
いや、なんか、違う気がする

「あー、青痣と擦り傷なんだが」
「って意外と腫れてるね、触診するよ」

ジンジンと熱を持った患部にひやりとした手が触れる
先ほどまで氷嚢を触っていたからだろうか

作品名:さようなら、恒常な日々 作家名:灰青