カテリーナ
9.
筆記具を貸してくれた女の子に、恋をした。
周りにいる女の子よりも、誰よりも、彼女は輝いて見えた。
異国の地は、俺にとって辛いことばかりだった。
故郷に帰りたいと何度も何度も思った。
けど、夢を叶えるためにここまで来た。
もう後戻りはできなかったし、許されないことだった。
俺はいつも優しさに飢えていたんだ。
周りの取り巻きが、俺を利用したがっているのは顔を見ればわかった。
「ガイコクジンのアルフレッド」「カワイソウなアルフレッド」
もう、うんざりだった。
俺は誰とでもわけ隔てなく接した。
そうすることで誰からも嫌われないようにしたんだ。
嫌われるのが怖かった。
要らないと捨てられるのが怖かった。
本当は自分のことが大嫌いなくせに、見栄を張った。
虚栄心と意地だけでそこにいた。
誰かに優しくすることで、自己満足していたんだ。
「汝、隣人を愛せよ」だって!?反吐がでる!!
彼女に出会ったのは、そんな時だった。
優しくて、優しくて。
彼女の笑顔で、救われた気がした。
彼女は何度も俺を尊敬していると言った。
俺は彼女の思っているような人間じゃないんだ。
だから、彼女の思っているような人間になろうと思った。
俺は、彼女の傍にいたかった。
―――彼女はいつもうつむいていた。
自分に自信がなくて。私なんて、と自分を卑下して。
彼女のことが大好きなのに。
俺は彼女のいいところ、たくさん知っているのに。
そんなの、勿体ないじゃないか!
俺は、誰でもなく、ただ彼女だけのHEROになりたかったんだ。
「ちょ、ちょっと待ってアルフレッドくん・・・私、よくわからないわ。いきなり付き合うなんて・・・。」
「俺は君が、君を好きになれるようにしてあげる」
笑った。彼女はまだよくわからないとおどおどしていた。
自分のことを、好きになって欲しいんだ。
俺が大好きな彼女を、彼女自身が好きにならなきゃ駄目だ。
「だからねライナ。毎日君の大好きなところを教えるよ。」
「・・・・っ・・・。」
彼女は真っ赤になった。
うつむいて、小さな声でつぶやく。
「ごめんね。私・・・。ごめんなさい!」
彼女はそう言うと、走って逃げてしまった。
嫌われた?
なら、どうしてごめんね、なんだろう。
俺はその場に立ち尽くすことしか、できなかった。