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カテリーナ

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2.

上巻を読み終えて、パタリと本を閉じた。
長い話だったが、今までに読んできたものと比べればさほどの量ではない。

――――兄は、ロシア文学の研究者だった。
今はロシアの大学で教鞭をとっている。
行ったこともない異国の土地で頑張る兄を思いながら、「カラマーゾフの兄弟」を手に取った。
私は一人、ここに残されていた。
姉は、兄とともにロシアにいる。
私も連れて行って欲しいとせがんだが、高校を卒業するまでは駄目、と二人に説得された。
今は、父の遺産と姉と兄の援助で一人暮らしをしている。
親はいない。
顔も、覚えていない。
兄と姉の母親と、私の母親は違う女だ。
父親は、私が小さいときに死んだそうだ。
私を産んだ母親も、私を産んですぐに死んだ。
「カラマーゾフの兄弟」みたいだ。
三兄弟の父、フョードル・パーヴロウィチ・カラマーゾフは色欲の塊のような男だった。
私の父も、そんな男だったのだろうか。
私の中に、そんな男の血が流れているのだろうか。
そんなことを考えて、ひどく自分がおぞましく感じられた。

私は、兄が好きだった。今も、大好きだ。この気持ちは変わらない。
きっとそれは兄妹の愛ではなく、男女の関係として、である。
兄に好きだと言ったことがある。
「うん、僕も大好きだよ。」と返されて、違う、そうじゃない。と言ったら、兄はとても寂しそうな顔をした。
「僕たちはたとえ腹違いだとしても兄妹だ。」
頭を撫でられて、頷くことしかできなかった。
「君をそういう風には見れない。」
兄が、ロシアに旅立つ前の晩だった。

兄と繋がっていたかった。
ほんの少しでいい。
私と兄を繋ぐのは、1ヵ月に一度送られてくるエアメールだけだった。
他愛のない言葉が綴られているそれを何度も読み、届いたその日に返事を書いた。
ロシアの冬は寒い、とか。風邪はひいてないか、とか。
そんな、どうでもいいことがつらつらと書いてあった。
私もどうでもいい返事を書いて送った。
「会いたい」と書いたことは、一度もなかった。
書けるはずも、なかった。

エアメールだけじゃ寂しくて、なにか共通点があるならとロシア文学を読むようになった。
兄の面影を求めて、ページをめくった。
ただの自己満足だということなど、わかっているのに。
わかっていても、何かを求めずにはいられなかったのだ。
私は何度も書店に足を運んだ。
駅の本屋は、ロシア文学がたくさん揃っていた。
小さな店だったが、兄と店長が知り合いだったこともあり、よく通うようになっていた。
カラマーゾフの上巻を、まだ隙間がたくさんある本棚にしまった。
4月に買った本棚は、まだ全然埋まらない。
この本棚が埋まったら、私はどうなるのだろう。
どうもならないことはわかっている。
けれど、確かな保証が欲しくて。兄に近づきたくて。
早く中巻を読みたい。そんなことを思いながら、布団に入る。
明日は学校の図書館にも行ってみよう。
私はすぐに眠りに落ちた。
雪が、しんしん降る夜だった。

作品名:カテリーナ 作家名:ずーか