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Blessing you(英米/R15)

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っく、ひっく。
最初にイギリスの耳が捉えたのは押し殺した泣き声だった。
音を立てないように後ろ手でそっとドアを閉め、室内を見渡す。
(―――――アメリカ)
そう広くはない室内で泣き声の主を見つけるのは簡単だった。
よく一緒に寝転んで乞われるままに絵本を読んでやったラグの上。
押し殺せない嗚咽を押し殺しながらアメリカは小さく蹲っていた。
「アメリカ」
出来る限り、当時に近い声音で名を呼ぶ。
声音に滲むのは愛しさ。
当時のイギリスがただ一人愛し慈しんだ英領アメリカへの愛情。
忘れてなどいない。
血反吐を吐くほど苦しんでも捨てきれなかった想いだ。
その想いを声にのせるなどそう難しいことではない。
「いぎ、りちゅ・・・?」
教会の鐘の音のような清らかな声でイギリスを呼び、アメリカを顔を上げた。
そしてキョロキョロと辺りを見渡し、ドアの近くにいたイギリスにぱっと表情を輝かせる。
花火のような明るい笑顔はイギリスにも伝染する。
柔らかく微笑んで膝を着き、軽く手を広げたイギリスに起き上ったアメリカは
真っ直ぐに飛びこんだ。
「わあ、いぎりちゅ?ほんとにいぎりちゅなの?」
「ああ。本当だ。一人にしてごめんな、アメリカ」
胸に飛び込んできたアメリカを抱きしめ、イギリスは謝罪の言葉を囁く。
二百数十年ぶりに抱いた小さなアメリカの身体は柔らかく太陽とミルクの匂いがした。
抱きしめられているアメリカは一生懸命に手を伸ばしてイギリスをぺたぺたと触る。
ここにいるイギリスが確かに本物なのだと、幻ではないのだと確認するような仕草に
思わず涙が滲みそうになった。
「なあアメリカ。今日はちょっと出かけるために来たんだ」
「え、いぎりちゅ、どこかに行っちゃうの?」
ぎゅっと抱きしめていたアメリカを少しだけ離してイギリスは用件を切り出した。
イギリスの服をしっかり握りしめていたアメリカはその言葉に不安そうに
イギリスを見上げる。
大丈夫だとさらさらの金糸を撫でて、額にもキスを落とし、口唇と口唇が
触れ合いそうな距離でイギリスは言葉を続けた。
「ああ、でもお前も一緒だ」
「俺も?」
「そうだ。あと、カナダとフランスも一緒に行く」
「!カナダとフランスに会えるの?」
内心緊張して出した二人の名前だったがアメリカは二人のことを認識しているらしく
無邪気に二人との再会に感激の声を上げた。
「おう。外で二人とも待っているぞ」
「わあい」
目を輝かせたアメリカは嬉しさのあまりにイギリスの口唇にキスをした。
ふにゃと餅よりも柔らかい感触に驚き固まるイギリスだったが
すぐにお返しといわんばかりにキスをし返す。
キスをされてもくすぐったそうにキャッキャッとはしゃぐアメリカは
誰が見ても天使だと思うだろう。
「アメリカ、しっかり掴まれよ」
「うん!」
胸元をしっかり握っているのを確認してイギリスは立ち上がった。
この頃のアメリカはまだ羽が生えているのではないかと思うくらい軽い。
そのままアメリカを抱えて外に出ようとしたイギリスだったが
引き留めるように胸元を軽く引っ張られ、ん?と足を止める。
「いぎりちゅ、あのね」
「なんだアメリカ」
頬を赤く染めたアメリカが言いにくそうにもにゅもにゅと口を動かした。
何度かあのねと繰り返し、四度目のあのねに続けて言いたかった一言を口にする。
「・・・おかえり、なんだぞ」
「アメリカ・・・」
「ここはいぎりちゅの家じゃないけど、俺といぎりちゅは家族だから・・・
 だからおかえり、なんだぞ」
「うん、うん。・・・ただいま、アメリカ」
涙が零れそうになるのをアメリカの小さな肩に顔をうずくめて隠す。
胸の中に暖かいものが満ち溢れて、どうにかなってしまいそうだった。
あの頃のイギリスも慣れないおかえりとただいまのやり取りに何度か涙しそうになった。
こんなにも暖かく迎え入れてくれたのはアメリカだけで、後にも先にも彼しかいない。
今はもう大きく立派になったアメリカを弟としてではなく、恋人として見ることの方が
多いけれども、弟としてのアメリカを忘れたわけでは無かった。
(まさかもう一度会えるなんてな)
すり、とアメリカの肩に額を擦りつけてイギリスはひとりごちた。
記憶の中でしか会えないだろうと思っただけに喜びもひとしおだ。
「いぎりちゅ、早く行こうよ」
「ああ。悪い」
ぺちぺちと腕を叩かれて顔を上げたイギリスはアメリカに一度笑いかけて
片腕だけでも支えられるようにしっかり抱え直す。
そして空いた左手でドアを開けた。
作品名:Blessing you(英米/R15) 作家名:ぽんたろう